鼬の道【ゴールデンカムイ】 (ページ8)

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第捌話: 指でっぽうページ8

雑居房にて、就寝を呼びかけをされるのを待っていた。この間(ま)、弓弦葉は退屈していた。

「お前は早く寝すぎなんだよ。も少し夜更かししろ！」

白石はその逆で、就寝時間を過ぎても看守の目がなければいつまでも起きている夜行性である。

『寝られるなら寝る。いつまでも健康体でいなきゃ長生きしないよ、白石くん？』

「フン！余計なお世話だね！」

瞼を閉じて眠気を呼ぶ。今日はなんだか眠れなかった。収監前は眠れたはずだが、この環境に慣れたからだろうか。弓弦葉はガバッと掛け布団を退かす。

「おう？寝なくていいのかよ、寝る子は育つぞ？」

『ん、じゃあ眠くなるまでお話して』

「ホントに子供みてぇだなお前」と言いつつも何を話そうか悩んでいる姿を見て、白石は優しいなぁとほくそ笑む。

「特になんもねぇな…そうだ、何で捕まったんだ？」

『そういう白石は？…って前に聞いたねこれは』

脱獄王とある意味で謳われている彼は、うんうんと何度もうなづく。外役で聞いた時は、何度も脱獄を繰り返すうちに最後は埼玉で野菜泥棒で逮捕されて現在に至るという。

『でも、どうして脱獄するようになったの？』

「んふ、聞きたい？聞きたい？」

『やっぱり聞きたくな「いやいや聞けよ！」

『…じゃあ、聞こうかな』

少々食い気味になりながらも「ッピュウ☆」と言って指でっぽうを繰り返す白石。
彼の獄衣の襟には囚人番号が書く厚い布の隙間から、一枚の紙を取り出して見せてきた。

紙にはのっぺりとした女性が描かれていた。見慣れない格好が目に付く。

『だ、誰？』

「シスター宮沢」

『シスター？』

この絵の女性は創作のものではなく、キリスト教の教誨(きょうかい)が廃止されるまで、樺戸集治監に出入りしてたという。教誨事業とは収容者対して行う精神的、倫理的、宗教的な強化指導をすることである。僧侶や牧師さんが受刑者に人の道を説き、更生へと導くように尽くした場所でもある。

「俺が20歳を過ぎて初めて樺戸(かばと)集治監に入れられた時に、ある男から貰ったのさ。春画としてな」

『えぇ春画かよ……』

「大丈夫、ちゃんと抜けたぜ」

『違うそうじゃない』

樺戸集治監は、国内三か所目の集治監として明治14年(1881年)9月3日に開庁。その中の一つが、ここ、網走刑務所から北西の位置にあたる。

「どんなに辛い時でも絵を見ると癒されたよ、毎日絵を見てはどんな人か想像した。次第に俺はその人に会いたくなったんだ」