昨日の約束

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「泣かないで･･･」


玉森がひとつ階段を上がる。
玉森と同じ位置の段に立つと、背の高さが玉森のが高いから見上げる態勢となる。玉森は逆にこっちを見下ろしてきて玉森の親指が涙を拭うように、俺の頬をすべる。
暗闇であまり見えないけど、いつもの玉森じゃない。悲しそうな、そんな瞳をしていた。


「オレがいるから」


玉森･･･？
真っ直ぐ見つめられる。いつも一緒にいるのに、初めてちゃんと顔を見た気になるのは、おかしい。
だけど、初めて見る表情。醸し出す雰囲気。
吸い込まれそうになるビー玉みたいなまんまるな瞳。絡まる視線。照れてしまって逸らしそうになる。


「逸らさないで。オレを見て。ミツ」



玉森もそんな表情をするんだ･･･
もしかして、


「玉森･･･」


俺のこと.....
ゆるくパーマをあてている黒い髪が、漆黒の闇と混ざる。



勘違いだよな？自意識過剰で思い過ごしだよな？
この階段が怖いから、こんなにもドキドキしてるんだよな？
吊り橋効果って言うんだっけ。こういうの。
なぜ、自分はドキドキしてる？
もしそうだとしても。
俺が好きなのはただ、ひとり。
藤ヶ谷なのに…


でも、その藤ヶ谷は。
あの女の子･･･あの女性と･･･



女の子と藤ヶ谷の光景が頭に過ぎりまた、涙がポツリと溢れた。
もういい。
俺のことを藤ヶ谷はもう想ってくれはしないんだ。
俺は、こんなにも好きで。待っていたのに。


「･･･たま、俺･･･ぐえっ」


いっぱいになりそのまま玉森の胸に身を委ねようとしたところで、急に、左腕を引っ張られた。
力強く掴まれる。
やばい！落ちる！
変な声と一緒にバランスを崩した俺は倒れ込む。


だけど、倒れなかった。
なぜなら、引き寄せた張本人が受け止めてくれたから。
心臓が悲鳴をあげる。


なんで･･･？なんで･･･


鼻に霞めるフワッとした爽やかな香り。
何かフルーツみたいな甘いけど爽やかな香り。


「コレはオレのだから」


ぎゅっと頬を胸板に押し付けられる。
耳元で聞こえてくるその人の心臓の音。
それは、俺の音かもしれない。
もうこの際わからない。

頭が真っ白になる。


「･･･ミツのこと迎えにきた訳じゃないんでしょ？女とチャラチャラ遊んでるみたいだし？」
「･･････」
「何も言えないでしょ？オレはずっとミツだけを見てた。ミツだけを想ってた」

･･･玉森.....今なんて、


「ミツはガヤには渡さない！」


初めて知る、玉森の想い。
それは友情として？
それとも・・・

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