昨日の約束

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春の木漏れ日。
ゴールデンウィークも終わり、新緑の木々。
大学内の広場も例外ではなく、新緑が光っていた。


それなのに、俺の心は沈んでいく。
決して、5月病ではない。
後ろの女の子に話しかけられたからだ。


「藤ヶ谷くんのお友だちの方ですよね？」


藤ヶ谷は一言も発していなかったにも関わらず。なんていうコミュ力。
そして記憶力。あんなに暗い場所だったのに。


「そうでーす」


俺を隠すように玉森が前に行ってくれて、答えてくれる。


「やっぱり！カッコイイ人だなって思ってたんです！」
「あー、ありがと」


玉森は確かにカッコイイ。
ただ、藤ヶ谷の前でそんなこと言っていいのか、彼女。まぁ、人を褒めることをできる彼女は決して悪い人じゃないんだろう。


「あおい、それぐらいにしときなさい」
「はーい」


"あおい"名前で呼んでるのね。あおいって名前なのね。そうだよな。大学生だもんな。中学の時みたいに苗字で呼ばないよな。いや、付き合ってるから名前で呼ぶのか。

列はあまり進まない。昼時だから仕方ない。
店員さんは何も悪くない。
早く、早く。この場から逃げたいのに。


「ミツ、オレやっぱりカツ丼食べたい」
「え？」
「だから、違う食堂いこー」
「え、ちょ、おい！」


玉森は急に何か思い立ったように、俺の手をとり、列から外れる。
カツ丼は確かにこの食堂にはない。


「ミツもカツ丼食べたいよね？」
「あ、うん」


ああ、これが玉森の優しさだ。
素っ気ないのに、愛を実感する瞬間。


「じゃあ、ガヤ。また」
「おう」


玉森はカツ丼が食べたいわけじゃない。
きっと、俺のことを気にしてくれたんだ。


列から離れ、二階堂たちのところへ行く途中、


「あの子より、ミツのが可愛いのにね」


サラッとそんなこと言うから耳まで熱くなる。


そんなことない。俺なんかより、サラサラな髪の彼女の方が･･･


でも、嬉しかった。


「ありがと、タマ」


強引にくることもできるのに、強引にくることはせず、助けてくれる。
多分玉森は俺を待ってるんだ。俺の気持ちが玉森に追いつくように。俺が藤ヶ谷を待ってるように。


「二階堂、宮田、悪い。オレらカツ丼食べてくるわ。混んでるし」
「え･･･！？ちょ、待ってよ！」
「また、次の講義で！」


二階堂は急いでカレーライスを頬張り、宮田もランチプレートを急いで頬張っていた。そんな2人を尻目に玉森は歩き出すから、俺も二人に手を振ると歩き出す。
玉森の背中は頼もしかった。

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