第二条 ページ3
「……え、あの、銀兄？」
「んだよ」
まじまじと観察してみる。ふわふわ天然パーマの銀髪、気怠げな赤茶の瞳に、隣に置かれた真剣。そして聞き覚えのあるこの声。
「本物だ……」
「何？なんなのさっきから
熱で頭やられたか？」
ったくよー、なんて愚痴りながら甲斐甲斐しく額のタオルを変えてくれる私の兄貴分は、どうやら本当にあの坂田銀時で間違いないようだ。
＿＿＿私は前世の記憶を持っている。
なるほど、言われてみれば確かに腑に落ちるところがあった。
松下村塾に初めて訪れたときに感じた懐かしさも、時折松陽先生も銀時も誰も知らない言葉を何故か知っていたこともこれで説明がつく。
「……ぃ、おい」
幼子は稀に胎内記憶や前世の記憶を持ったまま生まれることもあるらしいが、それはここまで鮮明に、思考や人格に影響を及ぼす程のものなのだろうか。
というかその記憶は「思い出す」ものなのか？
これは成長とともに薄れゆくのかそれとも……
「A！」
「はっ、はい！！」
名前を呼ばれてはっと我に返る。考え込みすぎて周りの声が聞こえなくなってたようだ。
銀兄が怪訝な目で私を見てくる。すんません。
「松陽がよ、起きたならポカリ飲めって」
飲めそうか？と差し出されたポカリを受け取って数口飲み下した。
乾いた喉に甘みのある液体が染み渡る。おいしい。
ふう、と一息ついた私の額に、銀ちゃんが自分の額を合わせてきた。ひえっ顔がいい
「んー？まだあっちいな」
安静にしとけ、と私の頭を撫でて部屋を出ていった銀時。入れ違いで松陽先生が入ってくる。
「先生」
「A、体調はどうですか？」
「まだちょっとぼーっとするけど、大分良くなりました」
先生はそれを聞いて少し安心したのか、柔く微笑んだ。綺麗な笑顔だなと思うのと同時に、心配をかけてしまった罪悪感も募る。
そんな私の心境を知ってか知らずか、先生はため息をひとつ零して言葉を繋げた。
「全く、いくら甘味が好物だからって……
限定わらび餅のために大雨の中何時間も並ぶからそうやって風邪を拗らせるんですよ」
この台詞に思い出す。そうだ私、銀兄と一緒に朝4時から露店に列んで…わらび餅買った帰りにぶっ倒れたんだ。
(うわあ下らない……ていうか私弱すぎじゃない？)
「……銀兄も一緒に行ったもん」
「銀時は体が丈夫だから良いんです」
「私も丈夫だもん」
「現に今倒れてるでしょう」
「………」
続く
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作者名：蟻 | 作成日時：2019年7月31日 20時
