こんこん。 ページ33
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彼はまだ先生の片手首を掴んでいる。
それを引き離すようにして、手首を引っ張った。
先生の軽い身体は簡単に俺の方へと傾く。
視界の端に移った先生の顔は俺の好きな笑顔なんかじゃなく、ただただ目を見開いて驚き心なしか怖がっているようにも見えた。
やっぱり、俺は。
先生が思うほど、優しくない。
「...すみません。失礼します。」
頭を下げ、先生を連れ去った。
俺は先生にとって王子様のように写っているだろうか、
それとも二人の幸せを引き離しに来た魔女なのかな。
ひたすら、ひたすら、学校の廊下を走る。
北棟のこの場所は誰の気配もない。
まるで夢のように、先生と俺の足音と呼吸音しか聞こえない今。
ドラマみたいなロマンチックなものではないけど、
先生のありえなく細くてか弱い手首から伝わってくる体温が、心の奥底に染み渡った。
階段の下の窪みにあるロッカーに先生を押し付ける。
両手を押さえつけながら、真っ直ぐに見つめれば、泣きそうな先生の顔。
ああ、今俺はなんてことをしているんだろう。
そんな心を無視するように、顔を近づける。
「....やめて...」
か細い声と、いつのまにか離れていた両手で押された肩。
反動で後ろに後ずさりをした。
拒否をされた。
分かってた、こうなることは。
ハナから予想してたのに。
床に溢れた涙。
先生の嗚咽が聞こえる。
さっき、彼とのときは受け入れていたのに。
「....あの人は...っ...いいのに...っ何で...」
答えなんか、求めたらもっと苦しくなること分かってる。だけど。
「.....っごめん」
それは、俺の思いに応えることができないことに対してのごめん、なのか。
「.....先生が..謝ることはない..「好きになってごめんなさい...!!」
「....っえ?」
俯いていた顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃになった顔は痛々しくて、苦しかった。
「...........ほんとは...ずっと好きだった...あのとき...山田くんに...告白されたときも...ずっと」
思考がついていかない。
「.....っでも、おれ....っ...男だし...山田くんが....後ろ指を指されるようなことになったら....ほんとに...耐えられなくて....っう......」
震える肩を落ち着けるように、先生を抱きしめた。
「......伊野尾先生が好きです」
首元で頷く先生。
「...俺。いま、めっちゃ幸せ」
また一回。
このまま時間が止まればいいのに。
そう、本気で願った。
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konokuro(プロフ) - あひる☆さん» 1を最後まで読んで頂きありがとうございました^ - ^ 2も楽しみにしてくださいな! (2020年3月15日 21時) (レス) id: 8ceddc39fa (このIDを非表示/違反報告)
あひる☆(プロフ) - konokuroさん» 移行に行こう〜〜〜♪わーわー。。どきどきっ。。 (2020年3月15日 14時) (レス) id: 15b8e56e15 (このIDを非表示/違反報告)
konokuro(プロフ) - あひる☆さん» あひるん!!!コメントありがとうございます^ - ^ そんなこと言っていただけるなんて....!! こちらも早め早めの投稿を心がけます!^ - ^ (2020年2月29日 1時) (レス) id: 8ceddc39fa (このIDを非表示/違反報告)
konokuro(プロフ) - うさこさん» こんばんは。今回もお待たせいたしました...m(_ _)m そう思っていただけて嬉しいです^ - ^ そうなんです!複雑な感情と天気雨をかけてみました笑 晴れなの?雨なの?どっちなんだい!笑 (2020年2月29日 1時) (レス) id: 8ceddc39fa (このIDを非表示/違反報告)
あひる☆(プロフ) - 複雑な心情を読ませていただきました〜〜♪はぁぁー・・よい!よいなぁ〜〜。ちねさんのきもちっ!!またまた楽しみにまっとりますぅ〜〜♪ (2020年2月28日 18時) (レス) id: f52dbdb7e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:konokuro | 作成日時:2019年6月22日 23時