第116話 ページ39
その温もりに溶けるようにあたしは意識を手放した。
康人｢っ｣
頭に当たった何かで頭を切ったらしく、康人は額に触れる。自分の手に血がついている。
OX｢大丈夫かっ｣
康人｢たいしたことないよ。少し切っただけだ｣
あたしをソファに寝かし、守がその上に毛布をかけてくれた。
康人｢この事、もしAが忘れていたら言うなよ｣
OX｢何でだよ｣
康人｢これから先、Aは辛いことが沢山ある。ならもう、負担をかけるのは良くないだろう｣
そしてその時、兄はニッコリと笑った。
その笑顔は、確かに面影があった。
三人で作ったばかりのユニットで、笑い合ったあの時と同じ笑顔だと。
康人｢お前達には悪いが、Aのこと支えてやってくれ。お前らが倒れたらきっと、Aは同じ事を繰り返す｣
目を覚ましたあたしは、確かにそのことを忘れていた。でもふとした瞬間に、あたしは自分の手首を切りつけた。
いつしかそれは収まったけれど、傷は残り続ける。
それを見る度にズキズキと痛む。
OX｢慰めるつもりで、確か康人さん…犬をもらってきたんだよなぁ…ゴールデンレトリバー｣
瀬名｢…あの犬か……ねぇ。その犬の名前は何なの？｣
OX｢苗字が橘だから、桜…だったと思うけど｣
瀬名｢俺が初めて会った時、康人さんは俺にその犬の名前をミウラって言ったんだけど｣
OX｢なに？｣
その真実を知るものは、今も病院のベッドに寝ている。
燃やされた手紙は塵となり、今では土になったろう。
それでも、あたしたちは知っている。
ミウラは先の先を読む。誰よりも未来を見据えていた。
簡単に見つかるなんて事は無い。
ならば、ミウラの意思を継いだ鍵はどこにあるのか。
その真実を知るものは、今もあたしの家で待っている。
あたしが一番知りたいこと。
消えた友人の最後を綴った手紙は小さな暗闇の奥でまだ静かに息を潜めている。
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作者名：�� | 作成日時：2017年7月25日 10時
