第109話 ページ32
守｢んっ…｣
目を覚ます。視界がぼやける。暗い、でも耳にはさっきまで聞いていた観客たちの声が聞こえる。
元から声は出ないが、口にはガムテープ。手足首には縄。ムカデのように動いているがビクともしない。
守｢ふっ、んんっ｣
なんとか壁を使って上半身を起こす。
ヒールの音。嫌な、聞き覚えのある音。
七瀬｢うふふ｣
守｢！？｣
いつもの艶やかなさらさらストレートの黒髪。不気味に微笑んだ赤い唇。そして美しすぎる美貌。
守の顎を持ち上げる。細長い指が守の頬に食い込む。つけ爪が痛く、微かに血が滲む。
七瀬｢顔は似てるのに、どうして君は欠陥品なのかしら。Aはあんなに、優秀なのに｣
同じ血から出来てるとは思えないわね…。耳元で囁いた言葉は、小さい頃から守の心はズキズキと音を立てていた。
姉は凄い。友達も多くて、明るくて、スーパースター。
俺のヒーロー。
守にとって憧れの存在だった。でも大きくなるにつれて距離ができて、近づこうと思ったらもうあんなに遠くて、泥沼に自分はいるのだと、息が苦しくなった。
声が出ないから、いつも可哀想ねぇと同情される。でももし自分じゃなく姉だったら、きっと劣る部分があっても、
それでも、いつも自分に手を差し伸べて置いてけぼりにはしなかった。いつも平等で、差のない笑顔で、太陽のように照らしてくれる。
夢を、描いた。
いつか、姉と同じ立場に並んで姉とともに音楽を奏でるんだ。
七瀬｢でも、あなたには無理だわ｣
悪魔の手のうちに、小瓶が揺れる。
七瀬｢そして不愉快｣
耳に注ぎ込まれる液体。痺れる痛みからの激痛。意識が飛びそうだ。
七瀬｢うふふ。貴方にとって大切なものは、Aにとっても大切だものね？｣
姉の七光りだと言われようとも、可哀想だと比べられても自分が折れずに生きてこれた理由。
きっとそれは、自分が奏でた音に夢が叶ったからだ。
段々と、音が遠のいていく。
守は息を止めるように、そっと重い瞼を閉じた。
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作者名：�� | 作成日時：2017年7月25日 10時
