31：彼女はただの ページ32
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橘が早く書き上げたから、とのことで。
生憎の天気で薄暗い廊下に映える封筒を黙って受け取った。
「返事は月曜日で大丈夫だから」
雨音が響く中でアルトの声がそう続けて、ふと浮かんだ憂鬱さと共に息を飲んだ。
いくら週末を挟む三日間の猶予があるとはいえ、また答えにくい話題だったら…なんて、彼女が書いたものじゃないから不安をチラつかせることは出来ない。
「じゃあ私はこれで…」
「…ああ」
咄嗟に「引き留めて悪かったな」と付け足した。天野の顔は笑っていたけれど、ずっと早くここから立ち去りたそうに見えたから。
──それもそうか。天野は橘に頼まれて手紙を渡しているだけ。相談に乗っているだけ。本来なら俺と関わりたかったわけでも無いし、家の事情を知りたかったわけでも無い。
それなのに、意図せず個性の話題に触れてしまったら申し訳なさそうにすぐに謝罪する。…彼女はただ優しいだけなんだ。再会したあの朝、あまり動かない口元が思わす綻んでしまったくらいに。
＿しかし、少し遠ざかった背中の向こうから短い声が零れると同時に、彼女の上履きがスキール音を鳴らした。
「ごめん！」
「？どうした」
「あのっ…さっきの、なんか強制してるみたいだったね、ごめん…！」
振り返った天野は掌で口を隠しながら、また俺に頭を下げる。対して俺の頭には疑問符が浮かんでいた。
「ほら、返事は月曜日でいいって。そもそも轟くんの善意で返してくれてるのに、上から目線で強制しちゃったから…」
そこまで嫌悪感は感じなかったのだが…わざわざ謝るなんて随分物腰が低いんだな。手紙を届けているだけで、ほとんど部外者なのに。それとも、俺を不快にさせると橘に悪いと思ったのか…。
「あ、その…返事は、どっちでもいいので」
「どっちでも、って？」
「書くか、書かないか。轟くんの負担になってることは分かってるから」
この話、どこかで聞いたことがあるような…。
＿いつどこで聞いたか思い出そうとしたその時、人気のない廊下に予鈴が響いた。あと五分で五時間目が始まる。
「っ私、戻るね！じゃあ」
今度こそ、といった風に走り出す靴音は、雨音に紛れて階段を駆け下りて行った。
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つぎはぎウルフ(プロフ) - あかねさん» こちらにもコメントしてくださりありがとうございます。楽しみにしていただけてとても嬉しいです。あかねさんも体にお気をつけて、陰ながら創作活動を応援しております。こちらの小説も更新頑張ります！ (2020年7月16日 17時) (
レス) id: 845ea04d4f (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - つぎはぎウルフさんの作品はどれも続きが気になるものばかりで、常に続きを楽しみにしながら読んでいます。これからも更新楽しみにしながら待ってます！体に気をつけて自分のペースで更新頑張ってください！ (2020年7月16日 7時) (レス) id: e8088c70b5 (このIDを非表示/違反報告)
つぎはぎウルフ(プロフ) - きなこもちさん» ありがとうございます。私も楽しみながら書いているものを楽しく呼んでもらえて嬉しいです。コメント読んでいて思わず顔がにやけちゃいました…(笑) 気に入ってもらえて何よりです(o^^o) 更新頑張ります。 (2020年7月14日 18時) (レス) id: 845ea04d4f (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 更新お疲れ様です！いつも楽しく読ませていただいてます。今までそこそこの量のヒロアカ二次創作を読んできましたが、この作品が一番好きかもしれません...！これからの展開がとっても楽しみです(´∀｀)応援しています！！！ (2020年7月13日 20時) (レス) id: 6f695c5604 (このIDを非表示/違反報告)
つぎはぎウルフ(プロフ) - ゆり。さん» ありがとうございます！ヒーロー科×他科の生徒、ということで、接点が少ない分表現が一辺倒になっていないか心配だったのですが、そう言ってもらえて自信がつきました。もうしばらく続きますので、今後も応援よろしくお願いします…！ (2020年7月10日 16時) (レス) id: 845ea04d4f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：つぎはぎウルフ
| 作成日時：2020年6月19日 20時
