主人公は転職できないらしい【PRODUCE101JAPAN】

44 変化する関係 ページ9

.




木全 side




こんな場面、絶対に鉢合わせたくなかった。


想いを伝える親友と、それに背を向けて逃げ出す自分の好きな人。


なんだこの最悪な状況。





珍しく早起きしたから廊下でダンスの準備体操をしていたら、聞こえてしまった。いや、聞いてしまった。





鶴房「お前のこと好きだから」





慌てて壁に背を当てて隠れた俺は、その汐恩の言葉を聞いて一瞬のうちにドクンと心臓に血が巡ったような感覚がした。

これからグループバトルの練習なのに目の前が暗くなるような、そんな気がした。





汐恩がAのこと好きなんて、知ってたに決まってる。

夜中に汐恩と2人でトランプをしたとき、楽しそうに彼女の話をする汐恩を見てすぐにわかった。






_____なんか知らんけどふと視界に入ってくるねん。あいつ多分俺のこと好きやな。


_____気づいちゃったんだよね、自分の気持ち。






そして景瑚くんが彼女に思いを馳せていることも頭にちらついて、俺は1人で頭を抱える。





うまくいくわけないなんて前からわかってたし、俺たちが目指すのはアイドル、恋愛なんてもってのほか。


そう自分の気持ちを誤魔化せば誤魔化すほど辛くなってきて、うまく息ができなくなった。




そして汐恩の方をちらりと見ると彼もまた苦しそうな顔をしていて、俺は壁に寄りかかってズルズルと床に座り込んだ。

清々しい朝の空の下、廊下は静寂に包まれる。




その中で、ズッ、と汐恩が鼻をすする音だけが響く。





…泣き出したいのは俺もだよ、汐恩。





悲しそうにする汐恩のせいで


先を越されて悔しそうな自分のせいで


誰も叶わない恋のせいで





糸が絡み合うように、ゆっくりと俺たちの関係もゆるゆると変化しているような気がした。






.

45 困らせるってわかってるけど→←43 何が起きたのかわからない

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す