9話 ページ10
白夜叉は、特に口を開くこともなかった。
こうして時々私の隣に座っては、一人月を見ていた。
「なぁ__」
不意に話しかけられ、白夜叉に腕を引かれた。
何?と首を彼の方に向ければ、彼は私にキスをした。
触れるだけの、ただ、それだけのキス。
彼は時々私の隣に来て、月を見る。
そして、私に触れるだけのキスをして帰ってゆく。
私が彼からのキスを拒まないのは、彼がこんなことを求めてしまう訳が、なんとなくわかるからだ。
生きている実感が湧かない。
仲間か敵か。
それすらも分からなくなってしまうほど、沢山の人が死んだ。
世間でいう大人、と呼ばれる年になる前にこんな戦場に来ることになってしまった私たちは、まだ人の温もりを知らないのだ。
理性を保てるほどの気力はもう残っていなくて。
こういうことをすれば、大人になれる気がして。
そうやって、自分に言い聞かせるのだ。
私は、俺はもう子供じゃないと。
独りになっても、大丈夫だと。
本当は大丈夫じゃないのに。
大丈夫だと暗示をかけて、今日も戦場で剣を振るう。
私に触れるだけのキスをした白夜叉の目は、いつもより濁っていて、虚ろだった。
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凛 - 最高です!胸がどきどきして止まらなかったです!泣きそうになりました。 (2023年1月8日 21時) (レス) @page28 id: 2bc0f45ebb (このIDを非表示/違反報告)
けんそう(プロフ) - kayaさん» そんな風に言ってもらえてとても嬉しいです!至らない点もあったかと思いますが、そう言ったコメントがとても励みになります。ありがとうございます! (2018年8月8日 8時) (レス) id: aaf4aecbc2 (このIDを非表示/違反報告)
kaya(プロフ) - なんだか読み終わった後、目頭があつくて、気づいたら涙が出ていました。文章が綺麗な素敵な作品だったと思います。 (2018年8月8日 0時) (レス) id: 504932b45f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:けんそう | 作成日時:2018年6月10日 21時