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それにしても綺麗な瞳だ、と目の前で私のハンカチを遠慮がちに取って目元に宛てる二子君を見ながら漠然と思う。やはり、予想通り泣いていたのか赤くなっていたが隠しているのが勿体無い程に綺麗な色だった。とはいえ、あまり見られたくなかっただろうに、咄嗟の判断とは言え可哀想な事をしたかもしれない。
ハンカチを濡らした時に運良く汚れていた袖口も濡れていたようで、丁度良いと思い指で汚れを落とす私を窺いながら二子君は「あ、の……Aさん」と掠れた声で私の名を呼んだ。
呼ばれて静かに覗き込めば、彼は私のハンカチをギュッと力を入れて握り込んで、泣いていたせいで元々赤らんでいた頬を更に赤く染めて身動ぎする。
「ち、血が逆流します……」と力無く言った彼の言葉に僅かに遅れてクスクスと笑ってしまった。なんて可愛い言葉だろうと思うが、そういえば彼は初日、私と顔を合わせた瞬間にへたり込んだ前例がある程私の顔に弱かった筈だ。
逆流されたら困るな、なんて笑い一歩距離をとる私を見て漸く、詰まった息を細く吐き出して心臓の辺りのスーツを握り、俯きがちに二子君は口を開く。
「この事は、どうか忘れてください……」
『うん、でも目は腫らしちゃ駄目だからね』
「ありがとう、ございます」
私よりもずっと身長が高いのにまるで弟を慰めている様な気持ちになる。話しているうちに涙が止まったのか、小さく息を整えながら彼は「ハンカチはどうしましょう」と私のハンカチに視線を下ろしながら問う。
別に他にもハンカチは幾らでもあるし、気にしないなら使っていても良いのだけども。そう微笑みながら首を緩く傾げて彼を覗き込めば、彼はぎこちなく固まった後に首を横に振って否定する。
「お、烏滸がましいです……」
『ただのハンカチなんだけどね。じゃあ返してもらうけれど……腫れちゃうと明日にも影響が出ちゃうから目は擦らない様にね』
「……そうですね、明日」
私のハンカチを聖具か何かだとでも思っているのか、ただの布にも関わらず割れ物を扱うが如く、慎重に丁寧に触る二子君に笑いを噛み殺しながらハンカチを受け取っておく。
考え事をしているのに加えて、泣いたのもあってか少しぼーっと呆けがちな二子君にしっかりと私の声が届いているかが分からないが、彼は私の言葉にへにゃと控えめに笑みを浮かべた。
「………見ていてください、Aさん」
『うん。見ているよ』
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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時