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サッカーに対して特に何かしらを抱いた事は無かったが、今からはそうでは居られないらしい。目の前で、喰らいあう猛獣の様にボールを交わす彼等の姿は、今まで見たどのスポーツよりも興奮させられて輝いて見えた。

やっぱりこういう状況だから、みんなの熱意に感化されたというのもあるのだろう。頑張る人がかっこいいのは世界の常識だ。

いつの間にか手を絡ませて食い入る様に無心に眺めていたらしい私の手首で、連絡用につけていた時計が通知を受信したのか明るい光を帯びる。気付いて手首に視線を落として、そしてとんでもない事実に気付いて静かに絶句した。



『急いで準備しないと……ごめんね。見せてくれてありがとう、頑張って』
「あ、A、」
「ありゃ?」



興奮からか不思議な程に目はぱっちりと冴えているから気づかなかったが、もう朝になっていた。今日から一次選考を始めるから早めに準備しなければいけないとアンリさんにお願いされていたのを思い出して、驚いた表情をする彼等に手を振り、慌ててその場から離れる。

確か初戦は二時間後だからフィールドの準備をしないといけない。前もって準備するタイプの人間なのである程度終わらせてあるが、まさか見るのに夢中で時間を忘れるなんて。初めての経験だ。



『ご、ごめんなさい……』
「Aちゃん! お疲れ様、準備は殆ど終わってるから少し眠る?」
「楽しかったか、Aちゃん?」
『………楽しかったです』
「そう。ならいいよ」



全速力で廊下を走り、慌てて駆け込んだ私を出迎えたのは心配そうな顔で綺麗な毛布を渡してくれたアンリさんと、何時もと変わらない表情ながらも少しからかい混じりの声音をしたお兄さんで。

二人には夜通しサッカーをする蜂楽君と潔君と、それを見守る私が監視カメラから見えていた事だろう。準備の良いアンリさんが「少しでも休んだ方が良いから」と毛布を膝に掛けて空いた椅子に座らせてくれた。



「どうするAちゃん。好きな試合の場所に行ってもいいけど」



椅子を半回転させて私を見つめながらそう問うた従兄の言葉に、無数に並ぶモニターを見上げる。まだ無人のフィールドがずらりと並ぶその見慣れない光景に苦笑いしながら『此処で観ようかな』と答えた。



『サッカーの事よく分からないから、アンリさんに質問しても良いですか?』
「! 勿論大丈夫ですよAちゃん!」



「何でも聞いてね」と嬉しそうに私に抱き着くアンリさん。可愛い人だ。

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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

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