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私の知っているサッカーと違うな。全てのモニターの中で陣形も無視してボールに群がる選手の姿を見て、内心目を瞬かせる。ポジションという概念が存在しない無秩序なフィールドは正に混沌としていた。

目論見通りの展開なのかお兄さんはそこまで動じた様子もなければ、寧ろ予定調和を楽しんでいる様にすら見える。アンリさんもフィールドを熱心に見つめていて、質問する事さえはばかられる程の真剣さだ。



『あ、凄い……抜きましたよ』
「嗚呼、そろそろ出る奴は出る頃だな」



全チーム一応回っているので、全員顔見知りであると言えばそうなのだが。丁度、今朝会ったばかりの潔君達が所属するチームZとチームXの試合に視線を注いだ瞬間に起きた出来事に声を漏らせば、お兄さんはニヤリと口角を上げる。

チームXの十番。私に一度も話しかけてくる事はおろか近付いて来る事さえ無かったが、洗濯物を畳んでまとめておいてくれたり重い物を受け取ってくれたりと、律儀で生真面目な馬狼君。

その彼が豪快ながらも流れる様に綺麗な動きで、皆の間を割ってゴールへ真っ直ぐ向かう姿こそがきっとお兄さんが今回の試合で望んでいた事の一つなのだろう。あの不敵な笑みはどう見てもそうだ。笑顔が怖いよお兄さん。

されるがまま、まとまり始めたチームXの勢いに流されるままで蜘蛛の巣に絡め取られた蝶の様に動けずにいるチームZの皆の様子に、何時の間にか膝の上に置いた手を握り込む私をチラリと一瞥して、お兄さんは「気になるか?」とモニターに視線を流す。



「別に贔屓してもいいよ」
『え、でもマネージャーが贔屓なんて……』



何て事無さげに淡々と述べたお兄さんの言葉に目を丸くする。マネージャーが一チームだけを贔屓して他のチームを疎かにするなんて、公平さに欠けて勿論良い事では無いだろう。だから私も気をつけていたのに。

何より、お兄さんは効率性だとか合理性だとかを重視するタイプだろうに。怪訝そうな目でお兄さんを引き目で見ていれば、お兄さんは不服そうに目を細めて手をひらりと振った。



「Aちゃんはそこまで馬鹿じゃないだろ、だからスカウトした。Aちゃんの心を掴むのも試験の一環だよ」
『………そう、なのかな……? でも、まだ掴まれたって程じゃない、と思うから』
「そう」



知ってるから気になるだけ、今はまだその段階だろう。試験の一環というのは実感できないが、そうであるならしっかりと確かめたいのだ。

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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

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