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空調が効いてそこそこ過ごしやすい温度に保たれているが、やはり夜になると自然と冷えるなと思いながらカーディガンを羽織り直す。



『此処もよし、と……』
「あっ、Aちゃんだ〜!」
『きゃっ、』



朝は早く起き、夜もそこそこ遅くまで起きていないと仕事が終わらないけれど三日も経てば慣れてくるものだ。すっかり慣れた手つきでフィールドの設備の確認をして、電気を消そうとした私を不意に呼び止める明るい声音に、いきなりの事で甲高い悲鳴をあげそうになって咄嗟に口元を押さえた。



「もしかして後片付けとか終わった感じ……か?」
『この後使うの? なら待ってね、ボールとか片付けちゃったから』
「えっ、いやそんな……悪いし、走り込みとか出来るからいいって」
『遠慮しないでいいんだよ、サポートが私の仕事だから』



手をブンブンと元気に振りながら近付いてくる蜂楽君と、その彼の半歩後ろを着いて来ていた潔君に手を振り返す。部屋から出て来た私を見て申し訳なさそうにする潔君に『皆がサッカーしてるところ、私はまだ見た事が無いから見てみたいな』と笑いかければ、彼は安堵した様に息を吐いて小さく頷いた。

見た事が無いのは本当の事だ。「なら楽しみにしててね」と楽しげに笑った蜂楽君を思い出し、ワクワクと若干高揚する気持ちを感じながらボールを一つ取り出す。

渡そうと小走りで駆け寄ろうとすれば、腕捲りをしていた蜂楽君が「Aちゃん蹴って〜!」と手を大きく掲げて笑って言う。



「じょ〜ず!」
『蜂楽君がね』
「にゃはは」



サッカーなんてやった事無いし、と一瞬戸惑うが言われたままにボールから手を放して蹴り出した……が案の定ボールは明後日の方向へとブレブレのカーブを描きながら飛んでいく。にも関わらず、瞬く間も無くボールに追いついた蜂楽君が胸で受け止めるのを見て、その綺麗な動きに感嘆の息を吐き出した。

同時に、素人目でも分かる程に綺麗で丁寧な動きで上手でもチームZなのか、とこのプロジェクトの過酷さが垣間見えた気がする。殆ど差は無いとは言えど、順位分けでそう決められているのだ。私にはその差すら分からない程、皆上手に見えてしまう。



『……かっこいい』



ボールを足で楽しげに操っていた蜂楽君が、瞬間激しい動きで潔君に向かって走り出す。何か話している様だが、この位置ではギリギリ聞こえないしあまり聞くつもりも無い。聞いていても、見るのに夢中で頭に入らなかった事だろうが。

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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

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