16 ページ17
.
「あ、高嶺の花さん」
『月野Aさんだよ。お疲れ様、凪君』
「A?」
『うん』
玲王に教えてもらって予習した、とVピースを掲げる凪君にタオルを渡す。「だる〜」と大きな身体で伸びをしてその場に脱力して眠る様に倒れ込む彼は、「次って何?」と面倒臭そうに私を見上げて問いかける。
お兄さんからファイルで貰っているので確認しようと、彼の横にしゃがみ込みながらスマホを取り出して確認しようとすれば、彼が「あ、スマホ」と身体を起こして羨ましそうに見入る姿が視界の端に見えた。
「ね〜、俺のスマホっていつ返して貰えるの?」
『頑張ってたらきっと返して貰えるよ。……次は、ランニングかな?』
「ふーん。……てかゲームとかやってるんだね」
『ん? うん、気晴らしに偶にするよ』
スマホの画面にあったゲームに気付いた凪君がそう言うのを聞いて、笑顔で肯定すれば彼は「意外」と端的に呟く。瞬間、それを耳聡く聞きつけた御影君が凪君の元へ駆け寄って来て「馬鹿野郎、失礼だろ!」と凪君の首根っこを掴んだ。
大丈夫だと首を振っても、御影君は納得していない様で。この反応速度は、御曹司故にそういった悩み事があるのかもしれないし、はたまたかなり根強い私のファンなのかもしれない。
私も結局は一般高校生なのでゲームもするし、漫画も読むし、そんなに顔程浮世離れした存在では無いのだ。『そんなに意外かな?』と凪君を見遣れば、彼は迷い無く「うん」と頷いた。
「でも、そんなに意外じゃないかも。俺、Aの事全然知らないし」
『そうだね〜、昨日が初めましてだから』
「え、は凪お前……月野Aの事、名前で呼んでんの……?」
「玲王は何でフルネームなの?」
「仲良くしたいって言ってたじゃん」と悪気があるのか無いのか分からない、澄ました表情の凪君に暴露されて噴火直前が如く顔を真っ赤にして恥ずかしそうに震え出す御影君。
「いいのか?」と。口に出さずとも目で分かりやすく問いかける彼に応えて微笑めば、彼は恥ずかしそうに口を開いて………そして、勇気が出ないのかまた閉じる。
それを何度か繰り返した後の事だろう。私と凪君にジッと見つめられていよいよ限界を迎えたのか、顔を手で覆って「A、サン」とくぐもった声で紡ぐ。
『うん』
「うっ、く……A、?」
『どっちでも良いよ』
「さ、んきゅ」
熱くなった頬を両手で包み込んで悶える彼は、やはりかなり根強い私のファンらしい。可愛い。
3808人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時