『文豪ストレイドッグス』飲んで呑まれて愛を引く<短編集>

ウーロンハイ『与謝野晶子』！百合注意！※やこさんリクエスト ページ36

安い居酒屋のカウンター。ガヤガヤと騒がしい店内で、女は待ち人をしていた。

扉が開き、店員が新規客に笑顔を向けて駆け寄る。やってきた客は「待ち合わせです」と一言告げ、店員から離れる。席に座った女が手を振った。

「此方だよ」
「すまないね、晶」

新規客はそういうや否や、女……与謝野晶子の隣に座る。長い髪を、項付近に括っているその姿から、客は女であると断定出来る。与謝野は溜息を吐いて呟いた。

「遅いじゃないか、A。おかげでボトルが三本も空いちまったよ」
「ははっ、ごめんって。此処は奢るから許してよ」

憎まれ口を叩く与謝野に、軽く笑いかけるその声は、優しげだ。いや、愛おしげと言った方が正しいか。
落ち着いたその所作や顔立ちは、何処と無く『美青年』と形容したくなる程に中性的だ。与謝野の頬に手を当て、自分に向かせたA。

「な、何さ」
「……可也酔った？顔赤いよ？」
「なっ……、この位で酔うモノかい！莫迦にするのも大概にしな！」

パシリ、と手は叩き落とされた。

「ごめんごめん。揶揄いたかっただけだよ。……一寸、失礼」

微笑みながら、懐に手を入れるA。その様子を見て、与謝野は灰皿を彼女の目の前に置く。煙草を取り出しながら、Aは煙草の箱を取り出して微笑む。

「すまないね」
「謝るンじゃないよ」
「そう。じゃあ、有難う」

箱を机で叩き何本かの先を出す。口に咥えて一本取り出し、与謝野へと残りの入った取り口を向けた。首を横に振って断られるのだが。

苦笑い。出した先を仕舞い、懐に箱を戻すA。

「晶は吸わないんだっけ」
「そんなの、百害あって一利なしさ」

ライターで咥えた煙草の先に火をつける。ジリジリと燃やした後に、口を離して煙を吐いた。

煙を吐いた時、Aの顔から表情が消える。それだけでも余りに色っぽいのは、Aの持つ独特で浮世離れした雰囲気に有るのだろう。

誤魔化すように、与謝野は酒を煽る。グラスから口を離し、Aに向き直る。

「アンタ、飲み物は？」
「うーん、ウーロンハイ？」
「疑問形にするンじゃないよ。面倒臭いねェ」

与謝野が飲み物を注文する。Aはと言えば、煙草に口を付け煙を吐くだけ。その動作だけで、後は与謝野を見詰めて笑うだけ。
視線に気付いた与謝野が、Aに向き直る。

好機。Aが煙を輪にして与謝野に吹きかける。

「晶」
「……何だい？」
「今夜、どう？」

性別？二人には些細な事だ。笑顔で全てを煙に巻いた。

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