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深い口付け。舌を絡め、吸い上げ、繋がる様な頭を溶かす接吻。互いの唇を離した時、皮肉にも橋が掛かることは無かった。男の黒が、女の鼈甲を呑む様に刺した。

「僕はお前を孤独にはしない」
「……真逆。人は人を救えない。自分の救済しか出来ないよ」

女は目を細めて挑発する。男は女に縋るように抱き締めた。ひしと、消えてしまうかもしれない存在を、繋ぎ止めるような……そんな心持ちで。真剣な面持ちで。

「お前は僕を救った」
「それは君が自分でやった。おめでとう、やちゅ」
「……呼び方、気に食わんな」

バーテンダーが裏に行ったその時に、男は女の首筋に噛み付く。血が出る程に、強く。仕置きと言わんばかりに。離したその時には、男の口の端に血が垂れる。その姿は、差し詰め吸血鬼の如く。

「龍之介」
「何だ」
「一人は嫌だ。二人で居よう」

苦い酒。苦いと知っていても、女は飲まずに居られなかった。男は、この言葉が只のその場だけの関係を求めている事を知っている。知っていても尚、男は頷く事しか出来なかった。

「お前は、僕でなくとも良いのだろうな」
「君は私じゃなきゃ駄目なの?」
「……否定は出来ぬ」

この会話さえ、もう何回目かもわからない。だが、女が応える事は無かった。男の肩に寄りかかった女は、そっと男の頬に唇を落とす。
男が女を見た時に、女はふわりと柔らかく笑った。

「売女が良いとはね。趣味悪いよ」
「お前だからだ、A」

グラスの鼈甲と、女の鼈甲が妖しく煌めく。男はわかっていた。自分は只の獲物だと。自分は只、この女の狗でしかないと。それでも、男は求めずには居られなかった。自身の為に。

「……莫迦ね。悪い女に騙されて」
「僕は騙されてやっているだけだ。其の気になれば、お前など……」
「わかってるよ。惚れた方が負けだろうね、斯ういう場合」

女が目を閉じる。男は溜息を吐き、外套の端を動かし女を持ち上げた。会計を済ませ、男と女は外に出る。熱を持った体に冷たい夜風が当たった。

「気持ちいいね、涼しくて」
「……嗚呼」

抱かれ心地は良くない筈だが、女は目を閉じて眠りこける。男は自宅までの道程を歩いた。女は自身の家に帰らない。男は微かに口角を上げ、目を細めた。

「何時か、必ず僕の手中に収めてやろう」
「出来るものならやってご覧。私の可愛いわんちゃん」

夜闇は二人を呑み込み、二人は夜闇に姿を眩ました。

チューハイ『F・ドストエフスキー』※櫻子さんリクエスト→←ウイスキー『芥川龍之介』



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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時

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