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ウイスキー『芥川龍之介』 ページ13

「飲み過ぎだ。もう止せ」
「嫌だなぁ、やちゅぅ……私はまだ飲むよォ!ますたあ!」

男が肩を揺すりグラスを取り上げる。女は呑まれてしまって据わった目をしている。それでも尚、酒を飲もうとするのは彼女の悪癖と言えよう。
男が溜息を一つ吐く。同期であり自分の想い人である女を放ってはおけないのだろう。

「A、余り醜態を晒すな。僕は其れを許す程に愚かではない」
「……嫌だよ。呑まれてなくっちゃ、生きていけない」

女は、遠くを見詰めて呟いた。

何時だって何も見ていなかった。人を殺める時も、敵組織の情報を操作する時も、場を撹乱する時も。
女にとっては、遊戯よりも幼稚な手遊びと同じ。彼女は孤独だった。男の尊敬する人物と同じく。

「……僕の事も、お前にとっては些細な事か?」
「うん。君と私はただの同期だし。君は太宰さんに認められたいだけでしょ。良いじゃん、利用し合えば」

男は、取り上げたグラスの中身を見詰めた。鼈甲色の液体が光を反射し揺れる。
利用。異能を持たずに上り詰める女にとって、男は武器に過ぎなかった。そして男に助言を与えていたのも、また女だった。

「A」

男は女の名前を呼んだ。酷くか細い、呟くような声で。女は焦点も定まらずに蕩けたような目を、男に向ける。

「お前は、太宰さんによく似ている」
「はは、彼処迄の技量は無いよ。私は二手三手、先を読むのが限界だ。あの人は、始終全てが見えている」
「……僕には、その違いはわからぬ」

男がグラスのウイスキーを一気に煽る。病弱な男の喉が、焼ける様な熱さを持った。男が女を見詰めた時に、女もまた男を見詰めていた。
女の瞳は、ウイスキーと同じ鼈甲色をしている。

「……熱い」
「ロックに慣れてない初心者め。この熱さが良いんだよ」

頼んだウイスキーが、女の手元に置かれる。女は一口、二口と飲み下し、グラスから口を離した。グラスと女の唇に銀の糸。
その光景に色香を感じた男は、ふい、と視線を逸らした。

「……孤独を忘れる為に飲む、肝臓も何でもくれてやる。私には、これしかない」

女は目を伏せ、チョコレヱトを頬張る。頭の揺れる浮遊感さえ、女にとっては救いだった。男は女を一瞥し、男の外套が獣の姿を形作る。獣は女に擦り寄った。

「……僕は、お前が居るから孤独では無い」
「莫迦言うなよ。人は皆、孤独だ」

軽く茶化した女は、獣を撫でて浴びるように酒を飲む。男は獣を使い女を引き寄せる。勢いで男の肩に体を預ける女に口付けた。

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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時

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