カンパリオレンジ『尾崎紅葉・中原中也』※嘘吐き姫さんリクエスト ページ44
「カンパリオレンジは、朝焼けによく似てる」
ポツリと呟いた言葉。
共にBARで飲んでいた二人が私を見た。少し気恥しい気持ちになり目を伏せる。右隣の姐さんがクスクスと笑い始めた。
「何時から詩人になッたんだ?手前は」
呆れた様に問うのは、姐さんを挟んで向こうに居る、中也。青い瞳は訝しげに細められる。
「まあ良いではないか。Aの虚ろは美しいじゃろうて」
姐さんの手にあるグラスが音を立てた。目を伏せるだけで絵になる彼女が羨ましい。
疚しい心が騒ぐから目を逸らした。私は自身のグラスをジッと見詰める。
「あ、夕焼けのが正しかったかも!朝焼けにはオレンジは無いし?」
誤魔化すように笑顔を繕う。顔を上げ、無理にはしゃぐ事には慣れ過ぎてしまった。二人から溜め息。
「な、何?」
「無理はするものでは無いぞ?」
「手前は虚ろも演技も上手いが……長い付き合いだ。この位なら判る」
呆れた様な目を向けられ、少しばかり怖気付いた私。口角は上げたままでも、目線は自然と足元に。美男美女が横に居れば、そりゃあ、取り柄の無い私は卑屈になる。
「……二人はいいなって」
「何故じゃ?」
「……二人とも、綺麗だから」
闇の華らしく美しかった。青い薔薇。黒い薔薇。毒々しさと美しさが伴った。私には、毒しか無かった。
中也の手元にあるウォッカは、お高いのだろうか。良く似合う彼も、価値のある男だ。姐さんは、和装であっても洋の店に良く似合う。和洋折衷とは、彼女の為にあるのでは無いだろうか。
色々と考えた結果、何も出なかったのだけど。手元の酒に心で謝罪。
「莫迦か。Aも充分に綺麗だろうが。俺は手前自身に釣り合ってねェ女は選ばねェっての」
中也はサラリと格好良い事を言ってのけた。恋人なだけはある。彼を見て、目を丸くしたまま固まってしまった。
「全くじゃ……こんなにも愛い子は他に居らぬ。劣を知るのは良いとは思うが、支配されては元も子もないぞ?」
昔から世話になっている姐さんも、当然の様に良い言葉を言って退ける。彼女の元に視線を移す。嗚呼、中也と付き合う前を思い出す。何時だって、味方なのは姐さんだ。
「……有難う」
肯定も否定も出来ない。だが、嬉しかったので礼は言う。優柔不断さを赦してくれているのは、二人なりの優しさだろうか。
姐さんと中也が目を合わせ、肩を竦めた。少し困った様な笑顔だ。窓から差し込むのは朝焼けの紅。私はゆっくりと初恋を飲み干した。
ブルーオーシャンフィズ『江戸川乱歩』※尚さんリクエスト→←ガルフストリーム『太宰治』※嘘吐き姫さんリクエスト
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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時