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ウォッカを一気に煽る。一息、深くゆっくりと吐き出した。身体が燃えている。口角が上がる。
「見た儘?」
「嗚呼。見た儘……チェス盤の上でチェスをしているよ、私は」
それはそうだ。誰だってそう思う。何せ、駒を取り合い王に近付く動きをしていたのだから。でも、私は違う。
私は隊列の先頭にあるボトルを掴み、中身をグラスに注ぐ。
「ふぅむ……鴎外君」
「何だね?」
「君の思考は、互いの共通認識……遊戯で言う所の『ルール』が同じでないと成り立たない」
幼女の頭を撫でてから、男を見詰める。男は柔和な笑みを浮かべている。だが、その目は氷よりも冷たく、感情の籠らないモノだ。
「先刻も言っていたけど……其れは如何言う事かな?」
「私はチェスをしていない」
「じゃあ、何をしていたんだい?」
男の問いに答える様、私は白の王に指をかける。その指で王を押し倒し、王は自身の女王を倒す。また女王は……と、駒が連鎖して倒れていく。
全ての駒が倒れ、幼女の膝に黒の王がコトリ、と落ちた。
「思考を読み読み……君の奥様の為に絡繰り仕掛けを作っていたよ」
チェス盤上のドミノ倒し。実は彼の相談に対しての答えでもあった。其れに気付いたのか、目の前の男は喉を鳴らして笑っていた。幼女は嬉しそうに手の中の王を弄り回している。
「成程。君の言いたい事は判った。しかしね、A君」
「うん?」
チェス盤前の机の僅かなスペースに肘をつけ、頬杖をついた。グラスに口を付けながら、男の目を見る。其の笑顔は、蛇の様に狡猾。
「常識違いの敵への打開策、君は判っているのかい?」
「狂人の種を分けてみればいい。鴎外君なら直ぐに見つける」
中身を一口。胸の奥が燃えた。幼女は、私が並べた黒の駒をつつき、倒した。男は少し考え、軈て全ての合点がいった様に笑みを深くする。
「ほう……判った。今回も難なく終わりそうだよ」
「ウォッカ、美味しかった。エリス、また会おうね」
男からの贈り物であるボトルを片手に、私は椅子から立ち上がる。席を外し、踵を返して片手を振り、扉の傍まで歩み寄る。
「又、頼る事があるかもしれないが……良いかな?」
後ろからの声に、背を向けた儘。私は男の目も見ない儘、口を開く。
「君が私の存在を認識出来る間は、何時だって駆け付けよう。其の時は、美味しいお酒は忘れずにね」
ボトルを掲げ、私は異能で闇に姿を溶かす。
「……嗚呼。覚えていて見せよう」
男は部屋で一人、チェスの片付けを始めていた。
ガルフストリーム『太宰治』※嘘吐き姫さんリクエスト→←ウォッカ『森鴎外』
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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時