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ふんふんと、機嫌良さげな鼻歌はまだ止まらない。
それがどこか心地好くて、私は暖かな『なずな』の腕の中でそれに耳を傾けていた。
ただ、少し。ゆらり、ゆらりと揺れながら軋むロッキングチェアがそろそろ壊れてしまいそうで、心配ね。
*
「……お師さん、大丈夫?肩とか凝ってない?俺、なんでもするで!」
「……なら、少しその口を閉じてくれたまえ。多少は目を瞑ろうとしてやらなくもないが、あまり度が過ぎてはいけないよ」
「はぁ〜い♪んふふ、お師さん、お師さん……♪」
相変わらず話を聞いてはいるけれど聞きやしない、へにゃりとだらしない顔すらなんだか懐かしくて、愛おしく思えてくる。
そんな自分に頭を抱えつつ、向かった先はコズミックプロダクション、ことコズプロの事務所だった。
「あ、斎宮先輩!お疲れ様で〜す」
「……ゆうたくん。なんだか、久しいね」
「あはは、割と最近に【MDM】とかありましたけど、やっぱり夢ノ咲と比べちゃうと『久しぶり』に感じますよね」
それはまぁ、確かに。
そうは思いつつも口には出さず、横目に同じ事務所のアイドルのポスターをさらりと見ながら、また自分の荷物に手をかけた。
「……まぁ、『2wink』もがんばりたまえ」
「はい、勿論です!あ、手伝いましょうか?」
「その必要はないよ。ほら、君には待っている人がいるんじゃないのかね?」
「……あはは、そうですね。では、失礼します……☆」
そう言って、彼は小走りで事務所をあとにしてしまった。
「お師さん、それ終わったらどないするん?」
「……まず昼食だろうね。何か食べたいものはあるか?」
「えぇ……」
分かりやすく迷っている姿は、学院にいた頃にもしょっちゅう目にした記憶。
そういえば、あの子は元気にしているのだろうか。
会いたい、なんて僕が言えた義理ではないのだろうけれどね。
*
さっきまで機嫌良さげに流れていた鼻歌は、いつの間にかすうすうという静かな寝息に入れ替わっていた。
「すう、すう……♪」
昼下がりだというのに深い眠りのようで、『なずな』は椅子に腰かけたまま動かない。
まぁ、『なずな』のアイドルの復帰から、まだまもない日。やっぱり、疲れているのかしら。
ふと、机に放り投げてあるノートがぱらりと捲れた。
あら、窓。開け放されているわね。
『なずな』のレポート用紙、風に飛ばされないといいのだけれど。
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作者名:竜花 | 作成日時:2020年7月8日 23時