Emotions ページ34
追いかけて、追いかけて、追いかけての繰り返し。ヒールつきの靴なんて気にもしないで、ただずっと走り続けて、見慣れた顔を見つける度にA4の、事務的なプリントを渡していく。
Valkyrieの二人が出てすぐ、私と仁兎先輩がほぼ同時に走り出していた。目的は一緒で、両手に抱えた紙の束の半分を差し出すと、それを持って先輩はあの二人を追いかける。会議室が気がかりになっているけれど、私も私で紙の束を持ち直して走り出した。
*
慌てて会議室まで帰ってくると、どよんと暗い雰囲気が充満している。彼らは私を見て、感情のよく分からない抑揚でおかえりなさいと言った。
重苦しい。その言葉が似合う雰囲気は、正直嫌いだ。私は言葉が見つからなくて何も言えないまま、時間が過ぎていってしまう。
「友ちゃん」
「うん、うん……ごめん、ほんとにごめんな」
宙が心配そうに声をかけると、それが引き金になったかのように友也の瞳からボロボロと涙が落ちてくる。慌ててその場にあったティッシュ箱を差し出すと、喉の奥から絞り出したような小さな声でお礼を言った。
「う〜……」
かける言葉はやはり見つからない。なんだか私まで泣きそうになってきてしまって、鼻の奥がツンとした。
「……すみ、ま、せん」
途切れ途切れの短い言葉。大丈夫、なんて意味を込めて精一杯抱きしめてあげたいけど、立場上そんなことをする訳にもいかず、考えていたことを見事汲み取った宙に目配せでゴーサインを出した。
ゴーサインを出された彼は、迷わず友也の両手を掴む。驚きで見開かれた瞳にはまだ涙がこぼれていて、目は真っ赤だ。
「大丈夫です、不安なことがいっぱいあるけど、あんずがいて、宙もいて、ししょ〜や仁兎せんぱいもみんないますから」
「もぉ〜、余計泣くからやめ、ろよぉ……」
ふいと彼が顔をそらした先には、私がいた。申し訳なさそうな顔をしていたから、大丈夫だよ、ファイト、的な気持ちを込めて力こぶをつくってみる。
「あはは、どういう意味ですかそれ……あの、さっきはすみません本当に、でも、あの、少し考えさせてください」
「うん、待ってる。」
そう言うと、少しだけ彼の表情が柔らかくなった気がした。
「友ちゃん、もう大丈夫です?」
「うん。春川、ありがと……」
まだ、彼らの両手は繋がれたまま。友也は繋がれて、塞がれた両手を見て少し困ったように笑った。
「このままじゃ、何にもできないな」
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作者名:竜花 | 作成日時:2020年7月8日 23時