Ghost ページ32
見覚えは、ない。女の子にも男の子にも見える顔
は、アイドルのような顔立ちだけれども、私はこの子を知らない。
この子と『ちあき』がぶつかった拍子に私の視界が揺れたらしい。声はないけれど気配はある、そんな不思議な時間が流れる。最初に口を開いたのは制服姿のその子だ。
「あんずなら会議室。揉めてるけど、すぐ終わるよ」
そう言いながら、特徴的な丸い瞳は私をじっと捉える。
「じゃ」
それも少しの間で、名前が聞ける機会もなくすぐに姿を消してしまった。『ちあき』はすぐに追いかけてくれたけれども、その子が曲がった先には何もいない。
「……制服」
「む?」
ここでは誰かの制服姿を見ることはないのだけれど、あの子は紛れもない夢ノ咲学院の制服を靡かせていたこと。それに気づいた『ひいろ』は、不思議そうに首を傾けた。
けれど、次の瞬間バタバタと忙しい足音が聞こえてくる。全員その足音に意識が向いて、振り返った先にはプロデューサーの姿があった。走ってきたのか、彼女の息が荒い。
「プロデューサーさん?」
「ちょっと……タイムもらっていいですか……」
彼女を横目に、『ちあき』は黒いあの子が消えた先に向き直る。何もいないその空間は、最初から何もいなかったかのように気配がない。
「先輩?」
「あ、いや……」
いつの間にか、彼女の呼吸は落ち着いている。
『ちあき』は狐につままれたような顔をしながらも、今度こそ彼女の方向へ意識を向けた。
*
「目を通すだけでもいいので、お願いします。お返事はホールハンズで!」
言いながら、彼女は『ちあき』と『ひいろ』に紙の束を差し出す。私を片手に持ったまま紙を受け取った『ちあき』は不思議そうな顔をしながらも、わかったと軽く返事をした。
「それでは」
「あ、待った。紫之くんがどこにいるか知らないか?」
「へ?」
そこで初めて、彼女と目が合った。
「あ……今なら空中庭園にいると思います」
私を見た途端に生まれた不思議な間が気になるところだけれども、彼らはそうでもないみたい。ありがとう、お疲れさま、なんて言い合いながら出口へ向かって小さくなっていく彼女の背中を見守る。
そして完全に姿が見えなくなってから、『ちあき』は『ひいろ』へ向き直る。
「よし、行くか」
「うむ!」
目指す先は空中庭園。その道中でも、黒いあの子の面影はどこにもない。まるで最初からいなかったみたいね。
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作者名:竜花 | 作成日時:2020年7月8日 23時