Mild ページ29
ふと、穏やかな声色が響く。斎宮先輩の声は、小さな声でも大きな存在感があった。
「彼女のためなら、僕は別に反対はしない。人形といえど、中身は僕たちと同じ……彼女が望むなら、僕は喜んで参加しよう。ただね……これはさすがに、実現は難しいだろうね」
「参加はしてくれるんだ」
「……Aへの、何も出来なかった僕からのせめてもの償いだよ」
次の瞬間、先輩の視線は俺に向けられた。心情が全く分からない表情に、緊張感でドキドキと胸が大きく鳴る。
「Ra*bitsとValkyrieが同じ舞台に……は、百歩譲って良しとしてやる。けれど、向こうのリーダーがこの有り様なら参加するのも考え直すよ」
明らかに俺に向いた矛先は、遠慮なんてものを知らずに俺自身のどこか、深いところに突き刺さる。
それでも同級生の後ろから動くことのできない俺に、に〜ちゃんは少しだけ寂しそうな顔をした。失望でもされたかな、俺。
「……別に急ぎでもないのだろう。僕の気が変わるまでは待ってやるから、それまでにハッキリしておいてくれ。行くよ、影片」
「えっ、もう？あんずちゃんともうちょっとお話したかったんやけど……まぁ、ええわ。じゃあ、また今度企画、聞かしてな！」
Valkyrieの二人が部屋を出ていく。それを黙って見送るに〜ちゃんの後ろ姿では、表情を読み取ることはできない。春川は何も言わずに、俺の盾にされたまま。
あんず先輩は……相変わらずの無表情だ。
＊
「え〜、何この面白い光景。敬人敬人、写真撮っていい？」
「やかましい失せろ貴様。おいコラ言ったそばから撮るな」
『けいと』に『えいち』。それから、『そうま』、『ちあき』、そして『ひいろ』。何度か聞いたことのある名前ばかりね。
「で、何この不思議な面子」
「俺もよく分からん！」
「奇遇だね、僕もだよ！」
「うるさい黙れ」
なんだか、今までお世話になったところとはどこか違う雰囲気が溢れている。これはこれで楽しいのだけど、あんまりいると目が回っちゃいそう。
「……正直我もよく分かっていないのであるが、先ほどものすごい形相をした紫之が蓮巳殿に人形を預けて去っていったのである」
「それで娘との距離感が分からない父親みたいになってるの？面白いね」
『えいち』はお腹を抱えて笑っている。よっぽどツボに入ったみたいね。話はよく見えないけれど、楽しそう。
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作者名：竜花 | 作成日時：2020年7月8日 23時
