Live ページ23
「あ、ほんで何の用やったん?」
『みか』はふと思い出したように話を変える。私はその『まよい』みたいな人が気になるのだけれど、彼らはそうでもないみたい。
「別に用って訳でもないけド、せっかくAちゃん連れてきたからネ」
「ほっかぁ。ここはそんなに変わらんよ、お師さんもマド姉もおらんけど」
「静かにはなったよネ」
「癖が強い人たちがごっそり卒業してもうたからなぁ」
言われて気づくのは、遠くで聞こえる波の音。去年はいつも人の声が聞こえていたわね。流星隊の叫び声、『わたる』と『ともや』の追いかけっこ、突然聞こえる楽器の音。それから、『けいと』の怒声。
ふふ、後半の方は今も星奏館で聞こえてはいるけれど。
「あ、笑った!」
「エ、今のそんなに面白かっタ?」
理屈はよく分からないけれど、私の声は笑ったときにだけ届く。本当に理屈はよく分からない。けれど、この怪談じみた現象だけ彼らに声が届いているから、意外と悪い気はしないわ。
昔は嫌いだったのだけれど……まぁ、その話はまた今度。
「んあ、もうこんな時間!?ごめんなっくん、Aちゃん!おれちょっと出掛けてくるけどゆっくりしていってなぁ!」
突然、大きな音を立てたのは『みか』だった。次の瞬間には大きな鞄を抱えて飛び出していて、その姿は去年とまるで変わらない。ぽつんと残された私たちは、彼の出ていった扉をただ見ていることしかできなかった。
あの慌てようは、『しゅう』に関連することかしら。
「……宗兄さんかナ」
そう呟いた『なつめ』は、ゆっくり最後の一口を放り込んだ。空になった皿とカップを重ねて、持ち上げる。
「ごめんネ、洗ってくるからちょっと待ってテ。後片付けくらいはやらせてネ」
『なつめ』はそれだけ言い残して廊下へ出ていってしまう。
この場所で一人きり。昔とまるで変わらない生活は懐かしいけれど、それ以上に虚しく感じた。
人の温度を覚えちゃったら、もう後戻りなんて出来ないのね。なぁんて、どうせいつか一人になるのがオチなのでしょうけど。
私はいつまで起きているのかしら。そんなことになるのなら、幸せなまま眠りたいわ。ふふふ、そもそも私って眠れるのかしら?なんだか虚しさが面白く思えてきて、思わず笑ってしまう。
本来聞こえるはずのない嘲笑じみた笑い声は、やはり、音になって部屋の空気を震わせた。
196人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:竜花 | 作成日時:2020年7月8日 23時