Nostalgic ページ21
「Aちゃん、ボクと学院に行かなイ?」
何の変哲もないある日のことだった。『れお』はいないけれど、午前中にも関わらず他の二人は部屋にいた。会話はないけれど、寂しさはない。『なずな』は寝転がって本を読んでいるけれど、眠そうね。
今日は不思議な色をした試験管を片手に、突然『なつめ』は首だけをこちらに向ける。
「うわっ、わぷ……っ、びっくりさせんにゃ!」
「フフ、ごめんネ?」
驚いた拍子に顔面に本を落とした『なずな』は、割と呆気なく眠気が覚めたらしい。
「去年より窮屈かもしれないけどネ」
「え、一年でそんなに変わるか?」
「プロデュース科が本格的に始動してかラ、結構ネ」
「ふーん……?A、どうだ?」
夢ノ咲学院。昔の住処であり、思い出の場所。今はどうなっているかは、そういえば知らなかった。
でも、せっかくだから行ってみたいわね。
「行ってみたい、みたいな顔してるぞ。なんかちょっと分かってきたかも!」
「本当ニ……?……いいけド、じゃあ行こうカ。Aちゃん借りていくヨ」
「行ってらっしゃい。二人とも、気をつけていくんだぞ〜」
*
今日は日曜日。がらんとした様子の教室は、寂しくて懐かしい。
「日曜日だからネ。でモ、彼ならいるらしいヨ?」
そう言いながら、どこか見覚えのあるドアの前に立つ。『なつめ』はノックを三回したけれど、返事はなくて、今度は強くノックをした。
「……は〜い?」
すると、間の抜けた返事と共に開いたドアの隙間から『みか』の色違いの瞳が見える。彼はぱちぱちと戸惑ったように瞬きをして、一歩遅れて驚いたように目を見開いた。
「なっくん?と、Aちゃん!えぇ、どないしよ何も準備してせぇへん!んあ、ごめんなぁっあと五分、あ、いや三分待って!」
「別に何も気にしないけド」
「おれが嫌!」
そう叫んで扉を閉めたその奥で、まるで漫画の一コマのようにドンガラ、ガッシャンとかなり不穏な音が聞こえた。『なつめ』も流石に心配になったのか、ドアに手をかけた、その時。
「お待たせしましたぁ〜!!ごめんなぁ、バタバタしてしもうて!」
「……ウン。」
突然ドアが勢いよく開いて、『みか』が顔を出す。『なつめ』は驚いたのかひきつった笑顔を浮かべて、今度こそ半開きのドアに手をかける。
「いらっしゃい、なっくんにAちゃん。あんまり大層なものはないけど、歓迎するで」
そう言って、『みか』は少しだけ大人びた笑みを浮かべた。
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作者名:竜花 | 作成日時:2020年7月8日 23時