Joyeux ページ17
「ちょっト、片付けてよネ」
「あともう少し!」
「……なんだこれ」
視線の先にはいくつもの楽譜が散らばっている。壁に書かれていないだけ綺麗だと思うのだけれど──って、思うのは私が夢ノ咲学院の光景しか知らないからなのかしら。
呆れを通り越して無表情になったまま、『なつめ』は散らばった紙をベッドの上に放り投げている。
「おかえリ。見ての通りだヨ」
『なつめ』の手は止まることなく楽譜を拾ってはベッドの上に投げ続けていて、まるで嫌がらせをする子供のようだ。私は何も思わなかったのだけれど、『なずな』は違ったようで。
ふと彼は堪えきれなかったように笑った。
『なずな』と『れお』は手を止め、ぽかんとした顔で『なずな』を見ている。
「あはは、なんかお前ら見てるとまだ学院にいるみたいだよなぁ。……よし、に〜ちゃんも手伝うぞ」
そう言って、彼は鞄を自分のベッドの上へ放り投げた。それから私を壁に沿った本棚の上に置いて、屈んだままの『なつめ』の横に立つ。
「A、ちょっと待ってろよ。これ終わったら斎宮に会いに行こう!」
構ってもらえなかったのが寂しいのか、兎がぶうぶうと鼻をならしている。
残念、私じゃ役不足ね。でも、『なずな』ならすぐ気づいてくれるから大丈夫。
「ああっ、また沸いてきたぞインスピレーションっ☆」
「……まぁ、今日中に終わればいいけどな」
『なつめ』が一瞬だけ黙り込んで、色んな感情を詰め込んだような溜め息をつきながらどかしてあった『れお』の布団に勢いよく顔を埋める。
「もう嫌ダ……」
「あっ分かる!この前おまえとあーるてぃーえー?やったときもなんかもうどうにでもなれ!!ってなった!」
「それ秒でやめたのレオちんだよな!?」
床に散らばったものを拾い上げながら、『なずな』は兎と戯れ始める。他愛ない話と一緒にゆっくりと始まった片付けばまたゆっくり終わっていく。
最後の一枚を拾い上げた頃にはもう、すっかり夜も更けていた。
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作者名:竜花 | 作成日時:2020年7月8日 23時