15枚目 心当たり ページ17
「そういえば逆先さん、ポケットから何か出てます」
僅かに腰を折り曲げ、骨ばった自身の手で彼のポケットを指差す。
彼はキョトン、と可愛らしい表情を一瞬だけ硬直させる。俺とは程遠いくらいに顔が整っていて、思わず一歩だけ足を引いた。
はみ出ていた赤い紐が引っ張り出されると、繋がっていたのは黒い箱のようなもの。
「……」
先程の騒がしい(原因はほぼ俺なのだが)口はどこへやら。
なにも言わず、大事そうにその黒いものを両手に包んだ。
「……すげーデリカシーないこと聞いていいっすか」
「キミのそういうところ嫌いじゃないヨ。これのことでしょウ？」
「はい」
「別ニ、ただのなんの変哲もないカメラだヨ」
彼の目の位置まで持っていかれたそれは、レンズに俺の姿を反射している。
真顔でダブルピースをしてみれば、これまた彼も同じような真顔でカシャ、とシャッターを切った。
「どうですか、可愛くもなければ顔も良くない真顔の男子中学生を撮った気分は」
「虚無感がすごイ」
いっそ筋肉撮ります？とずいずい元運動部の腕を近づけてみると、嫌だヨ、と捲った袖を片手で元に戻された。
別に、『そっち系』の世界ではないのでキュンともドスン(？)とも思わないのだが。
「面白い顔してるネ。」
「そっちこそ成功を納めた詐欺師みたいな顔してますね」
はっ、と嘲笑ってみると彼は更に笑みを深くする。よくこんな短時間でここまで仲良くなったものだ。いや、ほぼ俺のせいなんだろうけど。
「まぁ、それはともかク。写真、渡せるといいんだけれド」
「フィルムカメラって普通の機械じゃ印刷できないんでしたっけ？別に渡さなくたっていいですよ、どうせ俺の真顔だし需要ないんで」
「そウ？キミのご家族とかには需要あるんじゃなイ？ホラ、キミってなんか卒アル写真とか嫌がりそうだシ」
「あぁ、確かに嫌がりますね。友達をうまいこと前に押し出して写らないように……」
そういえば、なのだが。
俺の家族は近々こちらに引っ越すと聞いた覚えがある。
『姉ちゃん』はそのことを知っているのかな。
＊
｢なーんてネ｣
目を閉じて、彼は冗談のような声音で言いながらどこから持ってきたのかパイプ椅子の背もたれに手をついた。
ぎし、と音が鳴る。
｢つまらないでしょウ？これが一番最後の写真の経緯。偶然出会った男子中学生の真顔のダブルピースだヨ｣
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作者名：竜花 | 作成日時：2019年8月15日 2時
