〃 ページ9
シリウスはアズカバンで、この世の幸せを全て忘れてしまったような気分になっていた。
正確には思い出さないようにしていた。
そうしないと、唯一自分の中で輝くAとの記憶まで
あの日、目があったときのAはなぜか格好よかった。
覚悟を決めたような、全てを包み込んでくれるような、そんな表情をしていた。
あどけない雰囲気は最早感じられない。
大丈夫。この人なら、俺を見つけてくれる。
「シリウスのこと、誰にも盗られたくない」
「何より大切なんだ」
「ああ、よろしく頼む」
その時Aは泣いていた。
ホグワーツを卒業した時も、いくつかの誕生日を共に過ごした時も、一緒に住んで初めてのクリスマスも、
「シリウス！」
今も、泣いている。
前足がどうも短くて、知らない間に大きくなったAの背中までは包むことが出来なかった。
12年。
引き離された期間はあまりにも大きかった。
そして、守れなかったものも、あまりに大きすぎた。
どうして自分すらどこに居るのかも分からない場所にいるのに、Aは犬の自分を見つけることができたのだろうか。
「シリウスのその綺麗な瞳が見えたんだ」
人目も気にせず、シリウスは自分の手でAを抱き締めた。
.
"その様子だと、シリウスと会えたみたいだね"
リーマスには何もかもお見通しだった。
二人で建てた家に一人で住むのは大変だったので、家事はすべてやるから住まわせてくれと頼みに来たリーマスと共に住み始めたのはもう11年と三週間前だ。
"
君がどんどん窶れていくから、見てられなくて居候させてもらってたけど、僕はもうお役御免かな？
いい話し相手になれてた事を祈るよ
それと、不死鳥の騎士団に関しては、シリウスと話し合ってから決めてほしいと思っている
君からシリウスがそうだったように、僕から君へ、思いは変わらない
君を一番に尊重している
君の一番の親友リーマス・ルーピンより
"
風にやられて草臥れた羊皮紙からは、コーヒーのにおいがした。
まだ頬は少し痩けているけど、隣で新聞を広げるシリウスは髪も髭も整え、いつものスーツを着ていて男らしい。
「しかし、ホグワーツで吸魂鬼のキスを執行されると聞いたときは、本当に心臓が止まるかと思った」
「まだその話しをするのか？」
「ああ、いつまでもな」
12年の時を取り戻すように、再びAとシリウスは目を合わせた。
.
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作者名：おーすし | 作成日時：2023年2月11日 19時
