寂寞のアイソレーション２６

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「あーっ！ど、どうしよう、また焦がした！」





──十九年後、九月一日の朝、Aは家の台所で絶望していた。フライパンでまるこげになったスクランブルエッグを前にして、まるでこの世の終わりとでも言いたげな顔だ。





「もう家を出なくちゃいけない時間まで三十分しかないのに！どうしよう──何か他のものを作らなくちゃ──朝ご飯を抜きにしたら、みんなお腹をすかせ──あーっ！」

「どうしたんだA、さっきから大きな声出して」





別の部屋からリビングへとやってきたフレッドが、小さな赤ん坊を抱えながら、Aを見て目を丸くした。





「ふ、フレッド、私、朝食のスクランブルエッグを焦がした──それから、子どもたちの昼食用のお弁当を作るのを忘れてた──」

「なんだ、そういうことか」






フレッドはニヤッと笑うと、リビングに置いてあったベビーベッドに我が子を戻し、台所へと向かってきた。





「スクランブルエッグは──まあ、これは、俺とジョージが後で食べるからいいさ」

「何言ってるんだ、こんなもの食べても美味しくないぞ！」

「馬鹿だなあA。Aが作った料理ならぜーんぶ──美味いに決まってるだろ！」

「そんなこと言ってる場合じゃない！」





愛のハグをしようとAに向けて思い切り伸ばしたフレッドの腕が空を切った。Aは冷蔵庫を開けると食材を確認して、あれこれせっせと準備をし始めた。





「えーと──どうしよう──サンドイッチ──サンドイッチなら間に合うかな？」

「朝飯なら俺が作ってやるよ」





Aとの朝イチのハグを逃したことに不満そうな顔をしつつ、フレッドはフライパンの上で焦げたスクランブルエッグを更に移した。そして少しつまんで食べると、たちまち顔が青くなった。





「フレッド？どうしたんだ？」

「い゛や、なんでもない」

「はっきり言ってくれよ！」





Aはフレッドが食べたスクランブルエッグを同じようにひとつまみして食べてみた。それから、Aも顔を青ざめさせた。





「あ……私、し、塩と砂糖を間違えたんだ！それに入れすぎたみたいだ……ウッ、甘っ──いのに、焦げてて苦い…」

「いや、美味゛いよ、A……やっぱり、Aの料理は世界一゛……」

「フレッド？ フレッド！ しっかりしろ！フレッド！」





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