41 もうすぐ夏休みだから ページ42
ひんやりとした水が足の指先に触れた。
太陽に照らされ輝いている一面の青色は、空の青色を反射してできるものらしい。
夏の海風や足に絡まる水が心地よくて、なんとなく目を閉じれば、先程よりももっと波の音が響いたような気がした。
浜辺近くでぼんやり海岸線を眺めていた私とは反対に、スバルくんは浜辺を走りキラキラした物を探している。
彼は何か見つけるたび私に見せに来るから、私の手の中は最早貝殻でいっぱいだ。
一度休みにベンチに行こうとすれば、彼も私の後を着いてくるようだった。
「そういえばさ、Aと遊びに行くのって何気に今日が初めてじゃない？」
私の右隣に座り、近くで売っていたというアイスキャンディーを口に咥えながら彼が言った。
釣られて私も少し齧れば、口の中には桃の甘みがふんわりと広がって、少しは夏の暑さを忘れさせてくれる。
座ったと同時に手渡された黄色いアイスキャンディー。
彼は知らない間に私の分まで買っていたらしく、何度払うと言っても「男に奢らせて」と押し返されるから、諦めて彼の厚意に甘えさせて貰った。
「確かに放課後まで練習が多いからね」
まだ学生とは言え、日々の活動が将来にも直接的に関わっているアイドル科の生徒には、自由に過ごせる時間はあまりない。それを支えるプロデュース科も同じだけ大変ではあるけれど、やっぱり日々表舞台に立つ彼らの苦労は、私には想像もつかなくて。
たまには休暇が欲しいよね、なんて言ってみば、「夏休みになればたっぷりできるよ」と笑われた。
7月ももう中旬。あと数日もすれば夏休みが始まる。
…まぁ、夏休みと言ってもプロデュース以外決まった予定もないし、お盆にお婆ちゃんの家に帰るくらいだろうけど。
ぽつりと溢した独り言を聞いてから、隣に座っていた彼は何故だか急にもじもじとし始める。
「…じゃあ、もしAが良いなら…」
ヴー、ヴー
彼の言葉に被せるように、スカートのポケットに入れたスマホが鳴った。
話を遮りメッセージを開けば、一番上には"凛月くん"の名前。
「…ごめんスバルくん、私、戻らなきゃ」
お詫びになるかもわからないけれど…
半ば無理やり、あたりと書かれたアイスの棒を渡す。
偶然にも食べていたアイスキャンディーがあたりだったのだ。…まぁ、元はといえばスバルくんが選んでくれた物なのだけど。
「本当ごめんね、もし良ければまた誘って！」
後ろを振り返りつつ大声で言えば、彼はどこか嬉しそうに「転ばないでね〜！」なんて笑って手を振ってくれた。
…凛月くん、毎回毎回呼び出しのタイミングが悪いんだよなぁ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 416人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かなかなかな… - ありきたりな言い方になってしまいますが、ものすごく感動しました。所々泣きそうになってしまったり、最後はものすごくニヤニヤしたり。読んでいてとても楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました！！ (2022年3月29日 19時) (
レス) id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
みる - 最後のタイトル回収がほんとうにすごかったです！めちゃくちゃ楽しませていただきました！！ (2021年9月21日 17時) (レス) @page50 id: 8126ce0406 (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - ふわり｡さん» コメント・ここまでお付き合い下さり有難う御座います。こちらこそ、これからもお付き合い頂ければ嬉しく思います笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - 哀霞さん» コメント有難う御座います。そう言って頂けて幸いです…励みになります。次回作の方も宜しくお願い致します笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
ふわり｡ - 完結おめでとうございます！雰囲気も素敵でエピローグまで一気に読んじゃいました（笑）これからもファイトです！ (2019年8月21日 17時) (レス) id: 9c497f6a6a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：繕 | 作成日時：2019年7月31日 11時
