33 懐かしかったから ページ34
彼はその体勢のまま話しだす。今日の昼頃から遊木くんの様子が可怪しくなったことや、急に態度を変えだした氷鷹くんや神崎くんのことまで。
彼は私が何か言ったんだと疑ってやまなかったけれど、私だって何故かなんてわからないのだ。
乙狩くんは兎も角として、氷鷹くんや神崎くんは本当に突然のことだったから。
不意に目が合って、咄嗟に逸らしてしまう。
「…なんだよそれ、」
一瞬、手首にかかる力が強まった。
目の前の明星くんはそれから黙りこくる。彼が何を言おうとしていたかなんて私にはわからなかったけれど、今はとにかく掴まれた手が痛くて。
「あの、明星くん…」
恐る恐る声を出せば少し驚いたような顔をされた。
「…名前、呼ばなくなったんだ」
意外だった。
清々した、とでも言われると思っていたから。
「その方が良いかと思ったから」と本音を伝えれば、彼は顔を顰めて私を解放する。彼が大股で自席に行ったかと思えば、肩に鞄をかけ、右手には鞄から取り出した何かのノートを持って再び私の前に立つ。
「もうこんなの要らないから」
半ば無理やりノートを押し付けられ、彼は教室を出ていってしまった。
バン、と大きな音を立てて扉が閉じる。
手の中には一冊のA4サイズのノート。
端がボロボロになったそれには見覚えがあって。
( 取っておいてくれてたんだ、)
個別に渡していたプロデュース用のノート。
たった今跳ね返されちゃったけれど、それでも未だに持っていてくれたことが嬉しくて、気付けば自分の席に座ってぱらぱらとノートを見返していた。
何故だか読み飛ばすことができずに、一つひとつ丁寧に目を通す。
あぁ、当時はあの癖が直らずに苦労したなぁとか、この時期は四人が喧嘩して大変だったなぁとか。
悪いことばかりが頭に残るものと思っていたけれど、文字を見れば小さなことまで思い返せる。
二年生になって新調したノートはまだまだ余りのページがあって、あぁ、最後まで埋めたかったなぁなんて思う。
きっとそれは叶わないけれど。
「…あれ、」
最後の最後のページの端に小さな文字が見えて手が止まる。
それは私の文字じゃない、男の子の少し斜めがちな文字。
( あぁ、どうしてこうなっちゃったのかなぁ、 )
早く帰ってきてね、なんて、
ここに帰ってきてから君は一度も言ってくれなかったのに。
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かなかなかな… - ありきたりな言い方になってしまいますが、ものすごく感動しました。所々泣きそうになってしまったり、最後はものすごくニヤニヤしたり。読んでいてとても楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました！！ (2022年3月29日 19時) (
レス) id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
みる - 最後のタイトル回収がほんとうにすごかったです！めちゃくちゃ楽しませていただきました！！ (2021年9月21日 17時) (レス) @page50 id: 8126ce0406 (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - ふわり｡さん» コメント・ここまでお付き合い下さり有難う御座います。こちらこそ、これからもお付き合い頂ければ嬉しく思います笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - 哀霞さん» コメント有難う御座います。そう言って頂けて幸いです…励みになります。次回作の方も宜しくお願い致します笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
ふわり｡ - 完結おめでとうございます！雰囲気も素敵でエピローグまで一気に読んじゃいました（笑）これからもファイトです！ (2019年8月21日 17時) (レス) id: 9c497f6a6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：繕 | 作成日時：2019年7月31日 11時
