3 幸せ者だから ページ4
ふと、視界が開けば真っ白な部屋だった。
まるで長い眠りから目覚めたみたいに、脳内はいつもよりもクリアで、身体がいつもよりも軽い気がする。けれども身体は思うように動かなくて、仕方無しに耳を澄ませれば、一定のリズムで電子音が鳴り続けている。その音に少し思考を巡らせれば、ここが何処なのかはなんとなくわかってきて。
一先ずベッドから起き上がろうとするけれど、腕の違和感でそれは阻まれた。見れば見慣れない点滴が打たれていて、自分が置かれている状況の重さにようやく気付かされる。
…どうしよう。ナースコールとか押した方がいいんだろうか。いや、そもそも今は何時なんだろう。
時計か何かがないものかとなんとか腕を伸ばし、枕の横に置かれたテレビ台の手をかける。不意に手が触れたのは、時計やスマホなどではなく紙の触感で、なんとなくそれを手に取れば、薄桃色の可愛らしい封筒と対面する。
「…手紙」
半分に折られた便箋を恐る恐る開いてみれば、六つの個性ある文字がずらりと並んでいた。
上から順に、鳴上くん、伏見くん、大神くん、衣更くん、朔間くん、そしてみかくんからの私の体調を心配するような内容だ。
視界がぼやけて文字が見えなくて、気を逸らすために机の上を見れば、可愛らしいお洋服を着た小さなくまのぬいぐるみが置いてあるから、更に温かい水滴が溢れる。
みんな優しいなぁ、こんな私にも良くしてくれて。
私が好きなくまのぬいぐるみを選んでくれたのは、多分衣更くんだ。前にほんの少しだけ話したことなのに、しっかりと覚えてくれたんだなぁと心が暖かくなる。
そのくまが着ている可愛らしいお洋服は、みかくんが作ってくれたものだろう。彼にしては珍しい、小花柄の布に控えめな小さなフリル。どちらも私の好きなもの。
置き手紙を提案したのはきっと鳴上くんかな。可愛らしい便箋に、真っ先に、一番大きくメッセージを書いてくれている。
少し高そうな果物と、乱雑に置かれた私の鞄。
ベッドには誰かが寝ていたみたいなシワと温もりが残っていて。
みんな、みんな、本当にいい人ばっかりだ。
こんな私の為に、わざわざお見舞いにも来てくれて、こんなに気遣ってくれて。
「私、本当に幸せ者だなぁ」
望みすぎなければ、本当にただの幸せ者なのに。
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かなかなかな… - ありきたりな言い方になってしまいますが、ものすごく感動しました。所々泣きそうになってしまったり、最後はものすごくニヤニヤしたり。読んでいてとても楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました!! (2022年3月29日 19時) (レス) id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
みる - 最後のタイトル回収がほんとうにすごかったです!めちゃくちゃ楽しませていただきました!! (2021年9月21日 17時) (レス) @page50 id: 8126ce0406 (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - ふわり。さん» コメント・ここまでお付き合い下さり有難う御座います。こちらこそ、これからもお付き合い頂ければ嬉しく思います笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - 哀霞さん» コメント有難う御座います。そう言って頂けて幸いです…励みになります。次回作の方も宜しくお願い致します笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
ふわり。 - 完結おめでとうございます!雰囲気も素敵でエピローグまで一気に読んじゃいました(笑)これからもファイトです! (2019年8月21日 17時) (レス) id: 9c497f6a6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:繕 | 作成日時:2019年7月31日 11時