白百合の聖餐式 ページ1
「君達とは違うんだ。前提も、立場も、何もかもが。」
アスファルトの地面はどういう事か、柔らかいクッキーのように割れて立つ事は難しい。その周りの建物は砂で出来た城も同然で、どれも見る陰もなく原型を留めていなかった。
それらを彩る真っ赤な血痕は、ありとあらゆる所に飛び散って。それらを飾る緋色の炎は、全てを焼き尽くさんばかりに熱を孕んで渦巻いて。
「君達は『世界を救う』という前提の元、あらゆるものを犠牲にしてきた筈だ。レイシフト先の大地、人々、村、街、国、価値観──そして君達自身の"意思"も。何故ならそれらは、救おうとしている世界に比べて小さかったから。世界を救うにはどうしても必要だったから…きっと犠牲に出来たんだ。」
少年は言った。
「だけど俺は、俺達は違う。俺達から見えるこの世界は、酷く残酷すぎる箱庭なんだ。」
ありふれた日常が、俺にとっては地獄だったんだよ。そう言う彼の表情は見えない。
Aは呆然と佇んで目の前の少年を、何も言わずに見返した。
言いたい事は沢山ある。そんなことはなかったと、そうではないのだと。A達が駆け抜けてきた日々は確かに実在していて、それはら尊く、故に“今”があるのだから。
「それは……君の
「……そうだね。」
少年は静かに、悲しげに微笑んだ。
「そう…これはエゴ。何よりも彼女自身が大切だという俺のね。他人の意思を無視した“自己満足な救い”、偽善を正当化する“自分勝手な救い”──ライが何よりも嫌う〘正義〙そのものだ。」
でもね。
「この、このエゴで世界が救われるんだよ。良かったじゃないか──、」
──君達が望むように世界が救われて。
嘲笑が交ざった皮肉の言葉。
でも、こうと望んだ訳ではないと、お互い分かっていた。
明々と燃える大地。空に穿たれた"穴"。それらはまるで、Aが初めてレイシフトした炎上都市と瓜二つだ。
鮮やかに燃える地獄の世界の真ん中に立つ、褪せた白髪を靡かせる聖女。
彼女は全ての救済を望んだ。あらゆるものを祝福せんと願った。それは酷く残酷で、しかし儚い程の優しい願望だった。
善を裁定し、悪を許容する──残酷なまでに平等に。結末が、成れの果てがどんなに醜かろうとも、どんなに悍ましかろうとも。
悪すらも救う…そんな正義がほしかった。
それだけの話。
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作者名：紫陽花 | 作成日時：2020年3月24日 0時
