四 ページ21
「いいなァ出張。私も遊びに行きたい。
マスター、蟹缶おかわり」
空になった缶を振りながら云った太宰を見て我に返る
「私も遊びに行きたいなぁ。色んな所観てみたい」
「遊び?マフィア全員が貴方達のように暇潰しで生きている訳では無いのですよ太宰君、Aさん。
勿論仕事です」
「安吾は堅いなぁ。もっと楽に考えれば?
この世に存在するものは凡て死ぬまでの暇潰しだってさ」
「Aに全部云われた…まぁいいや。
それで、仕事って何の?」
太宰はむっとした表情で云った後、気を取り直したように安吾に訊いた
安吾は少し空中に視線を迷わせ、魚釣りです、と答えた
"魚釣り"とは、組織の隠語で、密輸商品の買い付けの事。
大抵は海外で造られた武器や横流し品を購う。
希に宝石や美術品が流通に乗って来る事もある
「へえ、それはご苦労。釣果は?」
「ゼロ。まるで無駄足でした。
欧州の一級品と聞いて足を運んだのですが、どれも町内会の手芸教室もかくやの我楽多ばかり。
ただ、悪くない骨董時計が一つありました。
中世後期の時計職人の作品です。
贋作でしょうが、この出来なら買い手はある」
安吾は鞄から紙包みに覆われた筺を僅かに見せた。
その上には、煙草や携帯雨傘など、出張道具が載っていた
__何か変だ
「取引は何時に終わったの?」
きっと太宰も私と同じ風に感じている
「夜の八時です。遊ぶ間もなくとんぼ返りですよ。
まあ、給料分は働きました。
これで僕も頸を切られずに済みそうだ」
安吾は苦笑してから付け足すように云った
「随分と気弱だね、"マフィアの凡てを識る男"坂口安吾ともあろうものが」
私の疑問を掻き消すように、太宰がにこやかに云った
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作者名:MIA | 作成日時:2017年7月5日 21時