蓬 髪 双 子【太宰治】

陸 ページ6

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兄さんの話を遮り
敦君は椅子から転がり落ちた

矢張り彼は人食い虎と何か関係があるね




「如何した？敦君」


「じ、じゃあ僕はこ、此れで失礼します」


「待て小僧」




此のあからさまにに不審な行動を見て
国木田君は敦君を摘まみ上げる




「貴様、人食い虎について知っているな？」


「彼奴は僕を狙っている、殺されかけたンだ！
此の近くに出ているなら早く逃げなきゃ！」




すると国木田君は敦君を離し
空かさず拘束する




「小僧！茶漬け代は腕一本か全て話すかだな」


「まあまあ国木田君。
君が遣ると情報取集が何時も尋問になる」


「社長に何時も注意されてるでしょ？」




国木田君は無言で手を離した

敦君が落ち着いたところで兄さんの
情報取集が始まる。




「それで、君はあの虎の何を知っている？」


「ウチの孤児院は、あの虎にぶっ壊されたンです

畑を荒らされ鶏小屋も壊され、それに倉庫も
死人こそは出なかったものの
経営が立ち行かなくなって僕は追い出された」


「そりゃあ災難だったね」




ふぅん、何だか厄介な事になって来たね




「それで小僧。殺されかけたと云うのは」


「あの人食い虎、僕を追い駆ける様に
僕の行く先々に現れるンです

此の間も鶴見の辺りにいた時に……
施設を追い出されて二週間
何度も彼奴の影を見た。

屹度僕を追って街へ降りてきたンだ」


「其の虎を最後に見たのは何時だい？」




此れで質問は最後か、此れで決まりだね




「確か、鶴見の辺りに居た時だから四日前です」


「確かに二週間前から
被害が此処に集中しているな

其れに四日前に鶴見の辺りで
虎の目撃証言も有る」


「ねえ敦君、此れから暇？」




私がそう声を掛けると
敦君は露骨に厭そうな顔をした




「君が人食い虎に追われているなら好都合だ。
虎探しを手伝って呉れ給え」


「厭ですよ！」


「国木田君は社に戻って此のメモを社長に」




そう云い兄さんは国木田君に紙を渡した。
恐らく其の事について




「おい、三人だけで捕まえる気か
先ずは情報の裏を取って…」


「良いから」


「僕は厭ですからね！！」


「其れって詰まり餌って事じゃないですか！」


「報酬出るよ？」




その瞬間、今迄首を横に振り続けていた敦君が
ピタリと止まった




「えっ報酬……！報酬って
……そ、そんなものじゃ釣られませんからね！

因みに、参考までに聞きますが
其の報酬と云うのは…」


「此れ位」




見事に釣れました

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