【男主】重い愛【碧棺左馬刻】 (ページ11)

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「ま、言いたくねぇならいいよ」

『え…』

「そこまでして聞くもんでもないだろ？人の過去ってさ」

『……すみません』

流れを変えるように一郎さんは

にっと笑ってそう言った

気を、使わせてしまった

「悪いくせなんだ。この仕事してるとさ、人の顔見て話するんだ。あ、今ちょっと機嫌悪いな～とか」

『あぁ…』

「お前ずっと変な顔してんだもん。兄貴の話し始めた途端、暗くなるし…なんかあったんだなーって、無神経だったな」

『いえ、全然…俺こそすみません、誤魔化して』

「いーんだよ」

グビっと目の前のお茶を飲み干した

一郎さんは

少し俯きがちに苦笑いした

そしてポツポツと話し始めた

「俺、あいつに…左馬刻にさ、よく言われるんだ。偽善者って」

『………』

「俺はそんなつもりねぇし、人のためになりたくてこの仕事にも就いた。でもこういう瞬間とか、たまに自分でも思うんだよ。いい子ぶってるだけだって」

『そんなこと…』

「あるんだよ。お前のためになろうと思って、悩みとかそういうの、聞くだけなら俺でも出来るかなって今日誘ってさ…お前楽しそうだったし、良かったんだけど…兄貴っつー地雷踏んで、なんも話してくんなかったけど、もしお前が素直に俺に全部打ち明けてくれたとして…多分俺は、それを全て受け入れることは出来なかったと思うんだ」

『………』

そうだ

どんなに仲が良くて優しい子だって

全て知った後は敵に回った

身体は女だとか

兄と関係を持っていたとか

全てを受け入れることは不可能だ

たとえ一郎さんでも

「なんつーか、やっぱり無力なんだよ。助けたいと思ってるだけで、本当に救えるかって言われると自信がないんだ。なのに、勢いで踏み込んじまう…そういうの、あいつの言う通り、善人ぶったただの偽善者だ」

『…一郎さんは優しいです』

「ははっ、ありがとな。でも、こんな人のためとか昔はこれっぽっちも思ってなかったんだ。俺も学生の頃は左馬刻みたくオラついてたからな」

『え…』

「言ったろ？前は一緒のグループ組んでたって。丁度学生のときで、認めたくねぇけど憧れだったよ。左馬刻は」

『憧れ…』

「そう。あの人みたくなりたくてピアスも開けて、喧嘩ばっかして…今でこそ犬猿の仲だけど、あいつも俺のことよく構ってくれてたし、割と優しかったし、仲良かった…かな」

『へぇ…』

その頃の左馬刻さんは

今よりもっと明るかったのかな

今よりもっと、優しかったのかな

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