俺を捨ててくれ ページ19
「嘘だろ・・・」
上杉の呆然とした声に、俺とアーヤは顔を上げる。
「何がだよ。」
「・・・道が、ない。」
一瞬、何を言われているのかわからなかった。
「・・・道がない?」
「ん・・・俺達が通って来た道が、塞がれてるんだ。」
目の前に倒れている、火を噴くように燃え上がっている柱を見て、俺はその意味を理解した。
「・・・上す・・門、・・・ヤは・・・か!」
熱風に乗って、途切れ途切れに若武の叫びが聞こえる。
「・・・翼、」
突然、腕の中から声がした。
慌てて見ると、アーヤの濡れた瞳が俺を見つめていた。
それは綺麗だったけど、でもそんなことよりも、
「・・・今、俺の名前。」
「だって翼、でしょ?」
アーヤが、呼んでくれた。
俺のこと、たすく、って。
呼んでくれた。
「翼、この声・・・向こうに若武がいるの?」
俺は少しだけ驚く。
声変わりして低くなったあの声を一瞬で若武のものと見破ったことに。
「・・・ああ、そうだぜ。」
答えたのは、上杉だった。
「若武も、黒木も、小塚も、七鬼も、ここにはいないが片山も、佐田も、奈子も・・・皆いる。皆、お前のことを待ってるんだ。」
それを聞いた瞬間、アーヤの瞳から透明な雫が零れ落ちた。
上杉の顔がギュッと歪む。
「ごめん俺、泣かせるつもりはなくて。」
「・・・違うの。」
何年も動かなかった綺麗な細い指が、しなやかな動きで自身の涙を拭った。
「嬉しいの。私なんかのこと、何年も想っててくれて。」
「・・・私なんか、とか言うなよっ!!」
俺は思わず叫んでいた。
大声に驚いたのか、アーヤがビクリと体を竦ませる。
「この10年間、俺達がお前を想わなかったことなんて、一回だってねぇよ!」
「美門っ!」
静かだが、鋭い声だった。
上杉の刺すような視線が俺を捉える。
「・・・気持ちはわかる。だが、大声出すんじゃねぇよ。」
俺はぐっと唇を噛む。
しょっぱい紅が滲み出るほど、強く強く。
アーヤの瞳が不安そうに揺れているのを見て、俺は意志を固めた。
「・・・上杉、ここ、最高何人通れるわけ?」
「実際に走り抜けられるのは、多く見積もって・・・一人だな。立花は抱えていけばいいが、俺か美門が・・・」
「上杉。」
上杉の言葉を遮って、俺は言った。
「俺を捨ててけ。・・・俺は、アーヤを守ることなんてできない。」
驚いているのは、アーヤも同じだった。
けど俺は、精一杯笑って言った。
「頼む。・・・俺を捨ててくれ。」
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桜 - めっちゃ泣きそうになりました。 (2021年8月19日 23時) (レス) id: f67671a5a5 (このIDを非表示/違反報告)
ききょう(プロフ) - 上杉愛梨@無期限活動休止@またいつかさん» ここちゃん!?わぁああ…久しぶり、久しぶりっ!文才はないけど嬉しいよ(泣)ありがとう!! ここちゃんも、忙しいと思うけど頑張ってね!色々!笑 (2019年12月24日 16時) (レス) id: 41db9f3d9e (このIDを非表示/違反報告)
上杉愛梨@無期限活動休止@またいつか(プロフ) - 完結おめでとう!冬休み入って暇だから、今日だけちょこっと遊びに来たよ! 最後泣いた!アーヤ強すぎ!カッコいい!てか、きっちゃんの文才分けて!きっちゃんの文才欲しい! とにかく、おめでとう!お疲れ様!これからも頑張れ!(話まとまってないのは許して) (2019年12月24日 14時) (レス) id: 55f34582ad (このIDを非表示/違反報告)
ききょう(プロフ) - ふぶきさん» ふー姉、ありがとう!そう言ってもらえて嬉しい!!これからもよろしくねん笑 (2019年10月19日 14時) (レス) id: 41db9f3d9e (このIDを非表示/違反報告)
ふぶき(プロフ) - きっちゃん、完結おめでとう!驚きの展開に時々声を上げながら読んでました(笑)(それを家族に見られて冷たい視線を送られたとか言えない…)他の作品も頑張ってね!! (2019年10月19日 14時) (レス) id: e51245e093 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ききょう | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/4be23582751/?w=1
作成日時:2018年12月19日 16時