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始まりの合図もなしに、ヒバリとAが駆け出す。金属同士が打ち合い、高い音を立てた。拮抗している2人の視界には互いしか映っていない。一撃一撃が重く、ぶつかり合うたびに衝撃を生んだ。
2つのトンファーを軽々と去なし、1つのナイフで攻撃を仕掛けるAは、これ以上楽しいことはないのではないかと思わせるような笑みを浮かべていた。
「すごい……すごいですよ、ヒバリさん!人間がここまでできるなんて知らなかった!」
「君のお喋りは遊んでいる最中でも健在だね」
「あっは、嬉しいんです!」
喜びで染め上げられた声が弾む。トンファーを受け止めた左腕がゴキャンッと音を立てた。だらりと垂れる腕は骨が折れているようで、本来曲がるはずのない方向へ捻じ曲がっている。しかし、Aの表情には痛みを覚えている様子はなく、ナイフでヒバリの顔を傷付けると、一度距離を取った。
折れた腕を掴んで無理矢理くっつけるように支えて手を離すA。その腕は本当にくっついているようで、垂れ下がることはなかった。
「はぁ〜、びっくりした」
「冗談もほどほどにしなよ」
「えへ、バレました?」
照れ笑いのような笑みをヒバリに向けたAは再びナイフを構え直す。
「治す時間なんて与えて良かったんです?」
「与えようが与えまいが、同じことだ」
「まあ、そうですけど」
平然と行われるそのやりとりにラル・ミルチは眉を顰めた。骨を折られたというのに痛みを感じていないようなAも、動じることもなく静観していたヒバリも、彼女には理解し難いのだ。2人には計り知れない信頼関係が築かれているということだけ窺えて、再度ぶつかり合う2人に呆れのような感情を抱いてしまう。
両者とも実力は互角だが、再生能力を持つAが相手であれば、ヒバリばかり傷を負っていく。持久戦に持ち込まれてしまえば、負けることは必須なのだ。それでも2人はやめようとしなかった。満足するまで、というのはそういうことだ。
それから20分ほど経ち、同じタイミングで距離を取ったヒバリとAは武器を下ろした。血が滴り落ちるヒバリと、乾いた血がこびりついたA。その表情は鋭さが消えて満足そうに緩められている。
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作者名:怜 | 作成日時:2022年10月24日 23時