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「本当にすみません……ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらないでください」
ぺこぺこと申し訳なさそうに何度も頭を下げるサラリーマンの男性に、作ったばかりの新しいサンドイッチを渡す。その傍ではゴミ袋の口を結ぶ坂田くんの姿。
「坂田くん、さっきはありがとう」
「？何がですか？」
「お客様にすぐに対応してくれたこと」
不思議そうに首を傾げる坂田くんにお礼を告げると、彼は納得がいったようにこくりと頷き、その可愛らしい瞳を僅かに細めた。
「僕も今日から立派な店員の一員なので。」
太陽のように笑った坂田くんは、その綺麗な手を私の手に重ねてぎゅっと握った。冷え性で指先まで冷たい私の手に、坂田くんの高い体温がじんわりと伝わる。
「これからもご指導、お願いします」
「！……ふふ、もちろんだよ」
この調子だと、あっという間に私が教えられることなくてなくなるかもしれないけど。子犬のような可愛らしい風貌とは裏腹に、その手はしっかりと男性らしく骨ばっていた。
「お疲れ様です」
「ありがとうございました」
挨拶を終えてから、二人で肩を並べて夜道を歩く。完全に日は落ちきったようで、群青色の広がる空の下を街灯に照らされながらコツコツと靴音を響かせた。
「いつからここで働いてるんですか？」
「今年で6年目かな。敬語も外して大丈夫だよ」
「ほんま？ありがとう」
たわいもない話題を交わして歩く午後21時。まだまだ夜はこれからのようで、街中には車のライトや居酒屋で人が騒ぐ声がガヤガヤと飛び交っている。
「そうだ、Aちゃん」
「ん？」
「連絡先、訊いてもええ？」
「！」
携帯を片手に首を傾げる坂田くんに、断ることもできずにポケットから携帯を取り出した。ちりちりと罪悪感が胸を掠める。何でもないことのように訊いてきた彼もきっと本当は分かっているのだろう。
うらたさんと会った夜に、坂田くんを含めて志麻とセンラさんの三人の連絡先を削除したことに。
「……やっぱり、俺の番号消してたんやね」
「っ、」
「気にせんとって。これから振り向かせたる。」
予想外の言葉に驚いて顔を上げると、そこにはネオンライトに照らされて綺麗に微笑む坂田くんの姿があった。
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作者名：らむ | 作成日時：2022年9月27日 10時
