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「A、仕事終わりに俺ん家来いひん？」
「今日？」
「用事あるなら優先してもらってええんやけど」
ボールペンを器用にクルクル回しながら手元の資料を眺めていた千羅は、綺麗な切れ長の瞳の奥で私を見つめるように視線を動かした。
「用事はない、けど」
「ほんま？なら決まりやね」
満足そうな表情を浮かべた千羅は「ほんならセンちゃん本気出しちゃいますか〜」とおどけたように笑ってみせた。自然と私も笑みが零れる。
「私も定時までには終わらせるね」
そうと決まれば一気に仕事を片付けるぞ、とカツを入れた私はデスクに戻るなり飴をひとつ舌に転がした。
「お疲れ様。疲れた？」
「疲れた……まさか早く終わりすぎて追加の資料も押し付けられるなんて……仮病でも使えばよかったかも」
「ほんでも全部終わらせるの凄いよな」
糖分を失ったまま屍の状態で仕事を終えた私に苦笑を浮かべながら、千羅はこちらにカフェオレを差し出してきた。私のお気に入りのカフェオレ。
「あったかい」
「やろ？いつもは冷たいやつ飲んでるけど、たまにはホットもええかなって」
「……ありがとう。」
手のひらにじんわりと広がる温かさに、無性に泣きそうになる。歪んだ視界には気付かないふりをしてギュッと両目を瞑った。
ピンと張り詰めた心にそっと寄り添うような温かさで触れられて、そこからゆっくりと溶けていくような感覚。どこまでも優しくて柔らかくて。
「なあ、A」
はっと両目を開けた。堪えきれずに目尻からぽろりと零れた涙は、筋を描いて頬を伝っていく。
「…あ、れ？なんでだろ、なんで…涙、が、」
笑うような泣きそうな震えた声が出る。両手で両目を抑えてみても涙が止まる気配は見えなかった。
「……暗いし、俺は何も見えてへんよ」
そっと告げられた一言に、最後まで堪えていた砦がボロボロと崩れ落ちるように涙が溢れていった。
社会人が何してるの、堪えなきゃ、と思えば思うほど天邪鬼のように涙腺が緩んでは透明の涙が頬に流れる。
ぎゅ、と暖かさに包まれる感覚がした。目の前に感じる心臓の鼓動。背中に回された腕はまるで子どもをあやすようにとんとんと優しく叩いた。
安心感を覚えたせいか更に目の奥が痛くなる感覚がする。とうとう私は堪えきれずに、小さな泣き声を上げた。
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らむ(プロフ) - ほたるさん» ほたる様 コメントありがとうございます！楽しんでいただけて何よりでございます。では番外編も時間がある際に作成いたしますね🌷最後までお読みいただきありがとうございました！ (2022年5月17日 2時) (
レス) id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
ほたる(プロフ) - 完結おめでとうございます！とても面白くて、これまで何回も読み返していました。もし良ければ、番外編も読んでみたいです！ (2022年5月16日 18時) (レス) @page47 id: 142d22e68a (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - 暁☆さん» 暁☆様 コメントありがとうございます！素敵なお言葉をいただき嬉しく思っております✿︎最後までお読みいただきありがとうございました！ (2022年5月16日 17時) (レス) @page47 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 完結おめでとうございます！本当にとても素敵なお話で、ドキドキしながら読み進めていました✨ こんなに素敵な作品をありがとうございます！ (2022年5月16日 17時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - みこさん» みこさん コメントありがとうございます！長らくお待たせしてしまったのにも関わらず、変わらず応援してくださりありがとうございます。本作品もどうぞ宜しくお願いいたします❁ (2022年4月17日 0時) (レス) @page15 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：らむ | 作成日時：2022年4月16日 10時
