3 ページ22
少女は強く目を擦り 涙を拭う。
彼がボディを4回叩き 伴奏を始める。
俺もこの曲知ってる。
的確でミスのないメロディ。
2人の呼吸がひとつになる。
少女の声を強調するように控えめな歌声。
でも心が籠ってて力強い。
なんだか目頭が熱くなってきて 頬を涙が伝う。
誰にもみられないように公園の遊具に隠れ 静かに涙を流す。
唄が終わると聞こえてくる拍手。
遊具の隙間からこっそり覗くと喪服を着た人たち スーパーの袋を持った人たちが集っていて みんな涙を流している。
言葉にできない感動で胸が苦しい。
俺は誰にもみられないように 静かにその場を立ち去った。
あれから数ヶ月後 ニュースに大きく取り上げられるほどの裁判に立ち会い 顔が知られるようになった俺。
依頼の件数も手に負えないくらいに増え 軌道に乗り始めた時 社内の誰かが 俺についての告発文書をネット記事にあげた。
俺だけではなく会社にまで大きな損害が出て倒産の危機。
告発した人もまさか会社までこうなるとは予想してなかったのだろう。
すぐにクビを切られた俺は 損害賠償を払いながら 色々な事務所にまわり採用して貰えるよう頼み込む。
もちろんニュースをみた事務所の人たちは俺を採用してくれるはずがなく 冷たくあしらう。
ついには父親にも影響が出て それが理由で親子の縁を切られるという事態に。
コネ入社なんかじゃない。正式に採用されたのに 噂は真実よりも強力で どうやっても真実だということを信じて貰えない。
もう死んでしまおうかと ボサボサの頭で 近くのホームセンターに足を運ぶ。
2月の寒い日 雪が降る。
今年は異常気象続きらしく 東京で雪が降り積もることも珍しくないそうだ。
適当履いてきたクロックスの隙間から雪が入って 足が痛い。
もう どうにでもなれ。
無心で歩き続ける俺。
“泣いて 求めて 転んで また泣いて
君は そうして 大人になって”
いつの間にか彼のところに来ていた。
ニット帽に3センチくらいの雪が積もってて あのコートを大事そうに着てて。
中には真新しい白いニット キレイめな黒のパンツ 暖かそうなブーツ。
｢霜焼けになっちゃいますよ｣
彼は彼が座っていたところに俺を座らせ クロックスを脱がせて 自分のブーツを俺に履かせる。
それは少しきつくて 暖かかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 79人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：賞味期限 | 作成日時：2022年5月15日 23時
