僕中心の世界 (ページ20)

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【キミの唄】ページ20

“ほら息を吸って吐いて生きている。
一歩一歩歩いている。ただそれだけでいい…”

紅葉が終わり枯葉が枝にサヨナラを告げる季節。

時刻はまだ午後4時半を過ぎたばかりなのに日が暮れ始めてる。

枯葉に埋もれギターを両手にかかえ声帯を震わせるヒト。

行き交う人もいないこの公園でひとりただひたすらに唄をうたい続ける。

こんな寒空の下職にも就かず何をしてるんだか。

遠くからでも見える毛玉のついたニット帽シワのある薄い生地の黒いトレーナー履き古したジーパンにビーチサンダル。

｢おじさん、これ、じぃじのいらなくなった服！あげる！｣

｢いいの？｣

｢うん！じぃじ、お病気でお家から出られなくて、でもおじちゃんの唄がお家まで聞こえてくるから、笑顔になって。。
だからそのお礼に！｣

｢そうなんだ。ありがとう。大切にするね！｣

小学校低学年くらいの女の子が厚手のコートを持ってきて彼に渡す。

すると彼は髭の下に笑みを浮かべ嬉しそうにそれを着る。

心が暖かくなった。

少女が帰っていくと彼は俺の視線に気付いたのかこっちを見て微笑む。

汚い。

こんなことしてないで早く職に就けばいいのに。

さっきの感情はどこへ行ったのやら。

きっとこの北風に乗せてどこか遠くの空へ飛ばされたのかな。

俺も僅かに吹くその風に乗って依頼人の家へ向かった。