離反 ページ22
本陣に椿がついた頃、ちょうど退却命令が出た。法螺貝の音が遠くに飛んでいく。状況を理解しようと思ったが、呼吸するのが精一杯で、本当に何も考えられなかった。いっそ何も考えようとは思わなかった。
まだ謀反と決まったわけじゃない。
実際退却命令が出ているのだから、秀吉様も半兵衛様も生きているはずだ。
まだ離反と決まったわけじゃない。
まだ何も知らされていないから、離反だと決まったわけじゃない。
何かの事故だろう。重要人物に変化は無いだろう。多分大丈夫だ。
(……いや、そうとは限らない)
秀吉様と半兵衛様が無事でも、謀反が未遂で終わっていたとしたら。誰かが離反の際、直接害を成すためでなくても、陣を破壊していったのでは。
何故、人を殺すことなく、こちらから離れたのか。何故殺す気がなかったのか。
答えはもう、ほとんど出ようとしている。
「………れ………」
先鋒で戦っていたはずの三成が、声を荒げて叫ぶ。
「おのれ家康ウウウウウウウウウウ！！！」
椿が状況を知ったときには、もう何もかもが遅かったのだ。
「姫様………」
形の整った爪には、爪紅の白がまだはっきり残っていた。
◆◇◆◇
曇った天気の下では、どうも気持ちが暗く下を向く。今日は特にそうだった。
Aは特にやることも無く、朝から晩まで書物を読んだり、兄の分まで仕事をしたり。そんな日々がただただ続くばかりだ。
もうやることはやり尽くして、今は城門近くを散歩したりしている。もう日が落ちてきたので、城に戻ろうかしているが。
その時だった。
「姫さん！！！」
左近がいた。戦に出ているのだから、今は居ないはずなのだが。
「左近?何故ここに」
「それどころじゃねぇっす！！家康が！」
家康さんがなんだ、そう聞く前に、左近は非常に慌てた様子で続けた。
「徳川家康が豊臣から離反しました！！！」
見開かれた瞳が揺れた。
「左近、私が戻るまで城にいてください！！」
Aの足は、城門をとうに越え、東へ駆け出したところだった。
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鶯餅(プロフ) - コメント有難う御座います！これからも更新頑張ります! (2018年5月29日 18時) (
レス) id: d3725be283 (このIDを非表示/違反報告)
朔夜 - 楽しく読ませて頂いてます！更新頑張って下さい!^ ^ (2018年5月29日 14時) (レス) id: df783c30d2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鶯餅 | 作成日時：2018年5月2日 22時
