n回目の一心不乱〈 QK 〉

逃避抗 - 3 ページ3

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「何でAはさ、あいつにそこまでこだわるの？」



俺が彼女にあいつへの気持ちを問いかけるのは初めてかもしれない。

状況にそぐわない質問だったからだろう、Aは潤みかける僅かに目を見張り、小さく口を開く。



「…え？」



何で今そんなこと聞くの、って言わなくても顔に書いてある。本当に分かりやすい。ポーカーフェイスを知らないのだ。


Aはずっと弱い子だった。

大学の合格発表日。サークルの勧誘に揉まれ困り果てていたあの時からそうだ。


押しに弱くて気も弱い、臆病で怖がり。おまけに自己評価だって低い。

そんな彼女だから真っ向から想いをぶつけたあいつに興味を持ったのだろう。手に取るように分かる。



好いてくれるから好きになった、の範疇を抜け出さないAの彼氏への思い。



そんなものに縁を切られちゃたまらない。そうだろう。




「あいつじゃなきゃダメ？そんなにあいつが良いの？」


「……」


「脅しで人を押さえつけようとする奴なのに」



しっかりと目を合わせる。驚きと何かが混じり合ったような彼女の表情。

ここまで問い詰めたのが初めてだからきっと驚いているのだろう。ごめんね、もう少し我慢して。



沈黙。

Aが重々しく口を開く。




「……あの人は、良い人だよ。…確かに酷いことはするけど。…それは全部、私が悪いし」


「……」


「だって、ね。…こんな私のこと、好きでいてくれてるの。浮気も全部好きだからで、」


「それならさ、」



食い気味に大きい声を被せる。
びくりと肩を震わせたAに心内で謝罪した。


でも、今じゃなきゃダメだから。

ほんの少し、もう少しだ。脆くなった心を突く。




「俺だってAのことが好きだよ。

　ねえ、俺のは一目惚れなんて脳の誤差じゃない。ちゃんと愛してる」



見張られた目が更に見開かれた。

あと少し。もっと、まだまだ俺の方を。




「今だってさ、君を離すくらいなら閉じ込めてしまった方がマシだとすら思うんだ」



右手を静かに伸ばし、触れたのはAの左手。

見張られた目は俺から逸らされることもない。





「…ねえ、それってさ、Aが大切にしてる彼氏からの愛と変わらないんじゃないの？」




左手をくいと引いてやる。

可愛くて弱い、彼女の瞳が揺れた。




早くこっちに傾きなよ。

悩んで悩んで、悩んだ末に俺に甘えて良いからさ。




ほら、だから早く俺を選んで。






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