逃避抗 - 2 ページ2
.
「颯、くんは。…大学入ってからずっと、助けてくれてたし。…仲良く、してくれたし。
…だ、だから。彼にも颯くんだけはって、言ってたんだけど。…もうダメだって、昨日、言われて」
水上颯くんは同い年の友達で、学部は違えど私を気にかけて仲良くしてくれるとても良い人だ。
人気者なのに隅っこの私をきちんと見ていてくれていて、勝手に兄のようだと思って慕っている人。
私の彼氏はそんな颯くんと同じ学部の同い年。
顔を真っ赤にしながら告白してくれたことは今でも覚えているし、今でも胸が熱くなる。
こんな何の取り柄もない私が好きなのだと言ってくれた時はどんなに嬉しかったことか。勿論彼も大切な大切な人で。
でも、そんな優しい彼も私が男の人と関わることは許してくれない。
当たり前のことだとは思う。だって私は彼の彼女なのだ。
ただ、他のお友達はともかく 颯くんと話せなくなることだけはどうも受け入れ難かった。
だから彼に颯くんはいかに良い人なのかを語り、颯くんだけはと、そうお願いして来たのだけど。
「…そう」
エアコンの冷たい風が頬に触れ、ちくりと痛む。
思い出すのは昨日のもう我慢ならないといった彼の顔。「水上と会うのをやめろ」と、そう平手で頬を打たれた衝撃。
1日経つ今でも殴られた頬がズキズキと痛む。
彼の想い故の痛みだと、そう言い聞かせてきた痛み。
「…ごめん、颯くん」
仕方なかった。
私と彼が恋人である限り、私は彼に自信を持って反論することができない。
泣きそうな私を見てはハッとしたように優しく頭を撫で、ごめんねと、お前が好きなんだと語る彼を突き放す術を知らないんだ。
「…何でそんな顔してるの？」
「…だって、……」
「悲しい？」
当たり前だ。そう言うように小さく頷き、熱くなる目頭を抑える。「そっか」颯くんが優しく言った。
仲良しだった。優しくしてくれた。こんな私を助けてくれた。
たくさんの恩と思い出をくれた颯くんと簡単にお別れができるはずなんてない。そんなわけない。
それでも最後だからと、私は顔を上げた。
颯くんの記憶に刻まれる最後の私が泣き顔なんて嫌だ。せめて笑顔で、
「…ねえ、A」
と、様々なものを堪えて視線を上げた、瞬間。
いつになく真剣な顔で、颯くんが私の名を呼んだ。
→
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1304人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「短編集」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
山田 - 本当にお話を考えるのもそれを文章にするのもお上手でただただ尊敬です… (2022年10月12日 0時) (
レス) @page24 id: 5e51f51780 (このIDを非表示/違反報告)
あー - 河村さんの話がめっちゃ良かったです! (2020年8月21日 18時) (レス) id: e630ce1c5f (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 290円様。あなたの三角関係系の小説すごく好きです。もちろん他の作品も好きですが、これらは小説としての魅力がずば抜けてます。あとたまに読み手に一抹の恐怖を与える作品も最高です。起承転結がしっかりしていて大好きです。まとまりのない長文を失礼致しました。 (2020年1月29日 3時) (レス) id: e047a9674f (このIDを非表示/違反報告)
むー - 好きすぎて更新されるたび心の中でガッツポーズしております。これからも楽しみにしてます…！ (2020年1月22日 21時) (レス) id: 1dbbe6e605 (このIDを非表示/違反報告)
めろぱん - コメント見て頂けたようで嬉しいです！後日談楽しみにしてます…ありがとうございます…あと他の方もコメントされてますがキューピッドの続編のキャロルもめっちゃすきです…悲恋系のお話大好物なので最高です…心を鷲掴みにされました。こちらのifも楽しみにしてます！ (2020年1月15日 0時) (レス) id: 18726b033e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：290円
| 作成日時：2019年9月25日 17時
