【文豪ストレイドッグス】私は君で、君は君

15話 ページ17

乾いた平手打ちの音がしたと思ったら、人虎は生け捕り……か


酷いものだ



君はきっとこの言葉に混乱するんだろうな




「人虎……？生け捕り……？あんたたち一体」


「元より僕らの目的は貴様ただ一人なのだ、人虎。そこに転がるお仲間は……いわば貴様の巻添え」




思考が一瞬だけ止まった




「僕のせいで皆が……？」


「然り。それが貴様の業だ、人虎。貴様は生きているだけで周囲の人間を損なうのだ」




違うさ、これは君に言われた言葉じゃない

私に言われた言葉だ


だから安心して、悪いのは凡て私だ

こうなると判っていながらも時に身を任せたのは私だ


君が傷付く事じゃない




「自分でも薄々気がついているのだろう？」


「……ふは、そうかもしれない。でも……彼に非はない」




出た声はあまりに小さく掠れていたが、最初に笑ったのは確かだ


黒い瞳はそれに気付かない




「『羅生門』」




彼の外套が黒獣に変わり、足元のすぐ横を通った


見ればコンクリート製の地面は抉られていた




「僕の『羅生門』は凡るモノを喰らう。抵抗するならば次は脚だ」




脚の力が抜けそうになる

尻餅をつくな、敦


が、何とか堪えて立ったままでいる

それでも目の前の恐怖には到底勝てない




「ぁ…………く……ん」


「！」


「敦…くん……逃げ、ろ………」


「う………」




二人はまだ息はある

だけど何時まで続くか分からない。そんな状態でも逃げろと云うんだ


この状態なのに自分だけ逃げてどうする？

それこそ社の看板を汚すのではないだろうか




「……大丈夫です」


「っ、敦……くっ………」




少しでも安心出来るように彼らに笑顔を向けてから前を見る

早く終わらせれば間に合う




君ならどういう風に彼に向かうだろうか


きっと恐怖を消すように叫ぶに違いないね




「うわぁぁあぁぁああぁあッ！！」


「玉砕か……詰らぬ」




正面から来る羅生門をスライディングで避けて彼の背後に回る

地面に落ちた拳銃を手に取り乱射する


効かないことは判ってる。所謂、悪足掻きだ



弾が出なくなった。芥川はぐりんと振り返る

彼の足元には薬莢が音を立てて落ちた



君が今感じているのは絶望だ。でもそれは君が負う感情じゃない

私が負うべき感情だ



彼は強い……




「今の動きは中々良かった。しかし所詮は愚者の蛮勇。云っただろう、僕の黒獣は悪食。凡るモノを喰らう。仮令それが『空間そのもの』であっても｣




判ってるさ

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