左手の手袋 独歩視点 ページ25
「でも、凄いな。お前達は」
宜野座さんは感心しながらも、視線をスープに向けたまま遠くを見つめる。
一二三から大体の事情は聞いているが、どうして無一文になったのか、何故倒れていたのか、家族や親戚は居ないのか……といった質問に関し、宜野座さんは「すまないな。実は自分にも記憶が朧気な所があって、今はなんとも……。整理出来たら話すよ」と曖昧に返された。
普通ならそこで怪しいと疑うが、宜野座さんの場合は答えたくないと言うより、本当に答えられない様子に見えた。根拠はないが、何故かそう思ったのだ。
(まだ二日しか一緒にいないけど……現時点ではしっかり者のように見えるし、無職になって無一文になるようには見えないんだよなあ。むしろ、俺より仕事出来そう……)
人は見た目によらないとは言うが、宜野座さんからはインテリで貫禄ある大人のオーラが滲み出ている。
けど、一つ気になる事がある。
「宜野座さんって、左手に手袋ずっとつけてますけど……どんな意味が?って、聞いてもいいんでしょうか……」
「ん?あぁ。構わない。普段は外すこともあるが、驚かせるかもしれないと思って敢えてずっとつけていただけだしな。二人なら大丈夫そうだが……見るか?」
「へ!?あ、いや、無理しなくても……!」
「なになに〜!?俺っちみたーい!」
「ひ、一二三!」
宜野座さんは怒らずに微笑み、ゆっくりと手袋をとった。宜野座さんの左手を見た俺達は目を見開いて黙ってしまう。
「義手、ですか?」
「そうだ」
「っ……すげぇカッケェ!」
「お、おい!確かにかっこいいけど……そんな呑気な発言は……!」
「ははっ。気遣いは無用だ。ある事故で左手を失って、義手になっただけだからな」
「ある事故、ですか」
「爆発に巻き込まれて、貨物コンテナの下敷きになってしまった事があってね」
宜野座さんは笑顔で話しているが、聞いて良かったのかと少し申し訳なくなった。
「ギノっちも苦労してんね〜」
「一二三、お前って奴は……」
「伊弉冉の言う通り、苦労しているにはしているが……前よりかは肩の荷がおりたかな。だから、こうやって二人と普通に話せているのかもしれない」
その言葉の意味が何を指すのか、この時の俺達にはまだ分からなかったが、宜野座さんにも色々あったのだろうと改めて実感した。
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イマツギ(プロフ) - 続きが楽しみです。お時間があれば更新頑張ってください! (2022年3月12日 12時) (レス) @page34 id: f5ff06f155 (このIDを非表示/違反報告)
紅 - 面白い!更新頑張って下さい! (2020年4月10日 13時) (レス) id: ceacd95bed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遙 | 作成日時:2016年2月6日 20時