第七十三話 ページ29
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杏「歩けるか?」
『あぁ。そんな早くは歩けないがな』
蝶屋敷から出るのに、ひと月程かかってしまった。
まぁ、私に関しては内臓や骨をやるのが二度目だし、治りが遅かった。
胸の傷もなかなか癒えなかったので、蝶屋敷から出ることが長らく禁じられていたのだ。
煉獄は毎日私の元に来ては、まだかまだかと退院を待ち望んでいた。
そして今日ようやく退院することが出来た私は、お館様の元へと出向き、報告と謝罪をした後、療養期間ということで休暇を頂いた。
杏「麻友が倒れてから、千寿郎が酷く心配していたんだ」
『…!はは…あの子にまで心配をかけてしまうとは、情けないな』
杏「そんなことはない。麻友はみんなのために戦ったんだ。誇りに思え。」
『…ありがとう』
そういえば、久しく千寿郎にも槇寿郎殿にも会っていないな。
近々挨拶を兼ねてお邪魔しよう。
あの人には無視されてしまうだろうがな。
杏「今日はあまり無理をして欲しくないから、甘味処でも行こう」
『ん、そうしよう』
私の腰に手を添えて、なるべく私に負担のないように歩いてくれる。
どこでこんなことを覚えたのか…
杏「着いたぞ!!」
『もう少し静かにしろ…他の人が驚く』
杏「すまん!!」
『はぁ…』
まぁ…これも煉獄の良いところ、か
私たちは席に腰を下ろすと、目に入った甘味を頼んだ。
久しぶりに甘味を食べるな…
色々あって立ち寄るのも気が引けていたしな…
杏「うまい!うまい!うまい!!」
店主が持ってきた甘味を勢いよく食す煉獄。
適当に食べているように見えて、よく観察すると本当に美味しそうに食べているのだ。
『ふはっ…美味いな』
杏「む?何故笑う?」
『幸せだから、だな』
手元の甘味を口に運びながらそう呟いた。
何だか照れくさい…
柄にも無いことを言ってしまった気がする
杏「俺も、幸せだ」
『!煉獄…』
杏「こうやって普通の生活を麻友と送れることが嬉しい!!」
満面の笑みでそう言う煉獄に、胸がキュッとなる。
そんな笑顔で言われたら、私までつられてしまう。
昔はよく凍った人形とも言われた私が、煉獄のおかげで笑えるようになった。
『ありがとう』
思わず零れた感謝の言葉は、
杏「こちらこそ」
優しく目を細める煉獄によって掬われた。
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真季 - 続編おめでとうございます。引き続き楽しみにお待ちしてます。 (2021年10月7日 23時) (レス) id: ac0ba7e69a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かふぇらて | 作成日時:2021年10月7日 22時