八話 人生万事塞翁が虎 ページ9
「ぼ、ぼぼ、僕はこれで失礼します」
裏返った声でそう告げると、四つん這いのままその場を去ろうとする敦。
それを見た国木田が、敦の首根っこを掴み止めた。
敦はそれでもまだ何とか逃げようと、しゃかしゃかと手足を動かした。
「待て」
「む、無理だ!
奴_____奴に人が敵うわけない!」
逃げられないとわかった敦は、恐怖の色に染まった顔でそう叫ぶ。
国木田は敦に情報を求めた。
「貴様、【人食い虎】を知っているのか?」
「あいつは僕を狙ってる!殺されかけたんだ!
この辺に出たんなら早く逃げないと_______」
国木田は敦の叫びを聴きながら、一瞬手を離すと、すぐ様敦を床に叩きつけ、腕を捻った。
店内に、ビタンッという大きな音が響く。
「云っただろう。武装探偵社は荒事専門だと。茶漬け代は腕一本かもしくは凡て話すかだな」
「...............................っ!」
『まあまあ、国木田さん』
「君がやると情報収集が尋問になる。社長にいつも云われてるじゃないか」
「..........ふん」
Aと太宰の介入によって、国木田は敦を離し、椅子に座らせ直す。
そして、いつの間にやら集まっていた野次馬を追い払った。
『落ち着いてね、敦くん。話してくれればそれでいいから。...それで?』
「.......うちの孤児院はあの虎にぶっ壊されたんです。死人こそ出なかったけど、貧乏孤児院がそれで立ち行かなくなって、口減らしに追い出された」
Aの優しい声音での質問に、敦は今日までの事を思い出しながら話す。
敦の頭の中には、孤児院の先生たちの酷い言葉が思い出されていた。
頭に強く刻み込まれてしまった、一種の呪いのような言葉。
敦の話が終わる頃、片付けられた机の上には、人数分の湯気がたつ湯のみが置かれていた。
「.............そりゃ災難だったね」
『酷いところですね...』
太宰とAは、何かを考える素振りを見せながらも、同情の意思を示す。
国木田は話を聞いた時の疑問点を質問した。
「それで小僧、「殺されかけた」と云うのは?」
「あの人食い虎___
孤児院で畑の大根食ってりゃいいのに、ここまで僕を追いかけてきたんだ!」
そしてまた敦は、その時の恐怖を思い出していた。
橋の下に捨てられていた割れた鏡に映った、自分の背後の光る眼球を。
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作者名:ark | 作成日時:2021年1月4日 18時